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トランプ米大統領選出は本当にショックな出来事なのか?

次期アメリカ大統領にドナルド・トランプが選ばれた。当選確実と信じられてきたヒラリー・クリントンは惨敗であった。世界中のメディアも専門家もが票を読み違え、世論調査や出口調査の信憑性が問われることになった。現在、いろんな人が色んなことを言っているが、公約数的に言えば、喧伝された低学歴の白人中低所得層以外にも、人種差、男女差、年齢差、階級差を超えて予想外に多数の「隠れトランプ」が居て、票を読み違えたという所であろうか。
選挙キャンペーン中の様々な暴言もあって、トランプがなったら世界の終わりくらいの言い方がされてきて、当選が決まったときは世界中の人びとがショックでしばらく言葉を失ったかのようであった。小生も間違いなくその一人であった。民主主義とは衆愚政治だとアメリカ国民を愚弄した論調のコメントも少なくなかった。そこでは「政治的正しさ・ポリティカル・コレクトネス(political correctness) ]とか「反知性主義」とか、今までは余り一般的ではなかった用語が目につくようになってきた。

ポリティカル・コレクトネスとは、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のことで、職業・性別・文化・人種・民族・宗教・ハンディキャップ・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現を指し(Weblio辞書より)、まさにトランプのとってきた言論、表現法とは逆のことを言うのだ。

今回の選挙で、民主主義社会における表向きの行儀のよさとか文化が綺麗ごとにすぎず、いかに無力で脆弱であるかが証明されたかのようであった。

資本主義が発展し、行きついたところが、ごく少数派による富と権力の独占であり、その結果として、生き甲斐や居場所を失いつつある中産階級の怒りと活路を求める声が、一方で多くの権力が特定のエリート階級に固定化することへの批判が「反知性主義」として若い知識階級の平等主義的な目覚めとしてあり、それらが結びついて前クリントン、オバマ民主党体制の継続に対し異議申し立てをしたのが今回の結果ではなかったかと思うのである。

これは世紀を跨いで続いてきた資本主義を中核とする政治経済体制の流れをストップさせようとする歴史的判断の始まりではなかったか、とすればショックではなくエポックメーキングな歴史的快挙とみることも出来るのではないかとさえ思うのである。

今回の選挙はアメリカの民主主義が健全に機能していることを証明したともいえる。なぜなら従来の政治的枠組みの中で十分に自分達の意思や利益を反映できなかった人々がテロやクーデターに訴えることなく平和裏に合法的に権力を転覆したからだ。

ビル・ヒラリー・クリントン一家のどこか信用できないエスタブリッシュメントの冷徹さ、あざとさを多くの米国民は見抜いていたのであり、そこをトランプは「30年も政界の中枢にいるのに、何故今も変革を訴えているのか」と皮肉ったのである。

また同時に米国を始め、世界中のマスメディアというものが、権力層の一翼と化し、一般国民の民意というものをいかに汲みとれないものであるかということを露呈した。

トランプの評価は未だこれからのことであり、皆が息をのんで様子を伺っている所であるが、マーケットは、政治的な混乱より、単純に金の廻り方だけをポジティブに評価し、早くも株価で好意的な反応を示している。当選後の今では、今後の思惑もあってか、マスコミも世論もネガティブキャンペーンはなりを潜めつつある。我が国においてもトランプをポジティブに評価しようする流れが政界を中心に生まれつつある。一部の政治家や評論家たちは、トランプは実業家であり、政治的には無知であるかもしれないが地頭が良いので政治というものをすぐに理解し現実的な対応をとるであろう。従って彼のこれまでの極端な暴言は杞憂となるであろうし、アメリカ経済は間違いなく良くなるであろうと楽観的である。

確かに彼は、あの言動にはふさわしくない高学歴であり、子供達も皆知的エリートである。ほんとうに優秀な遺伝子は継代するものであるから、彼が頭脳明晰であるのは事実であろうし、決して歴代大統領に見劣りするようなものではないようだ。

良く言えばトランプは、資本主義と言う疲弊した体制が崩壊しつつある現代に新しい秩序を築きあげるべく登場した時代の申し子的な人物なのかもしれない。丁度戦国時代を終焉させるべく織田信長が歴史の必然として現れ,スクラップアンドビルドを行ったかのように。

そう思ってみると、これから世界がどのように変わっていくかを見るのが楽しみでもあり、怖くもある。

小生の考えでは、短期的には中国、ロシアが勢いを増すが、やがて世界は覇権が失われ、混迷の時代に入るであろう。そして世界はスクラップアンドビルドが行われ新しい世界体制が出来るであろうが、それがどのようなものであるかは小生ごときには全く予測できない。

おそらく拡張を続けたグローバルな社会体制から、縮小に向かうローカルな社会体制に向かうのではないかと思う。概念的に言えば、原始共産制に向かい退行していくのではないか。人間は必要最小限に小さく群れて、その小社会で自己完結的に暮らすのが、ストレスが少なく幸せではないかと思うからである。

しかし、そこから、また再び同じような歴史を歩まないと言う保証はどこにもないのだ。

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