車好きは、いつかはフェラーリと思うらしいが、ご多分に漏れず小生もその誘惑に勝てず12気筒のフェラーリ550マラネロに乗った。
もちろん中古であるが、フェラーリの中古は一般に距離が出ておらず、きれいなものが多く、中古でも新車のような気分で乗ることができる。
ただタイミングベルトの消耗が早いので、その点は注意を要するが。
日本では12気筒は人気が無いらしいが、フラッグシップは12気筒である。
とにもかくにもデザインが美しいのである。
個人的にはカテゴリーはヴィジュアル系に入れたいくらいである。
マラネロは発売当時、車雑誌で華々しく取り上げ得られ、羨望の眼で見ていた記憶がある。
その気持ちがコンプレックスとして、無意識下に残っており、数年後に現物を見た時に、その思いが意識下で投影され誘惑に勝てなかったのだと思う。
色は品のいいグレー系で、内装はタンであった。
フェラーリといえば、なんといってもエンジンサウンドであるが、12気筒エンジンは意外に静かで物足りなく、仕方ないからクライスジークのマフラーを付けた。
これは音質の切り替えが出来るので、自宅周辺ではOFFにして静かにして走り、高速道路ではサウンド全開で走るという寸法なのである。
ミッションはマニュアルで、クラッチはあの1954年アストンマーチンDB2/4に比べれば数段軽く、運転はどうということはなく、工具のようなシフトレバーはカチンカチンと気持ちよく入った。
なぜかペダル位置が悪く、ヒール&トゥはアストンに比べやりにくかった。
街乗りは、さほど特徴のない走りだが、3000回転を越えてからの、要するに高速域からの加速はアドレナリンが飛び散り、そのサウンドにはエンドルフィンが洪水のように溢れ出るのである。
運転をする、という目的だけのために乗ってもいいと思わせるのはさすがフェラーリと思ったものだ。
ただ最大の問題は、走り出したら止められないということだ。
車高が低くフロントスポイラーは道路から僅かしか離れておら、ず、ちょっとした段差、スロープでも当たってしまい、駐車場を選び過ぎるのである。路面からの距離はポルシェと大差ないが、フロントノーズが長い分、接しやすくなるのである。これはアーデンジャガーも同じであった。
もちろんデパートなんて行けやしない。
結局安心して停められるところが無く、ひたすら走り続けることになってしまうのである。
フェラーリはまるでマグロのような回遊魚ならぬ回遊車なのである。
つまり知った場所しか安心して行けないのである。
初めての所に行くのに持ち出すのは、気が重くなるのである。
中古フェラーリの距離が出ていない一番の理由はここにあったのか、と妙に納得したのである。
結局大して距離も走らず、手放した。
いったい1キロ当たり幾らについたか、想像するだけでも恐ろしい。(これは家人には絶対言えない話です。)
それでも、いつかもう一度フェラーリに乗りたいと思うのは、あなたが美し過ぎるせいなのか。