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スポーツカー系その4―フェアレディ 280Z

フランス留学から帰ったら、田舎に預けてあったアウディ100クーペが動かなくて、通勤用に、とりあえずフェアレディ280Zの2年落ちの中古を買った。色は赤であった。

学生時代に、東京が実家の友人が親に買ってもらって乗っていたのが羨ましくて、その思いがどこかに残っていたのかもしれない。

新車を買う余裕はとてもなかったのである。

フェアレディ280Z(イメージ)

実はこれが、今までに自分で買った唯一の、最初で最後の国産車になるのである。

当時とて、それに今に至るまで、国産車の性能がひどく悪いわけではない。(当然のことではありますが。)ただ、 何となく買う気にならなかっただけである。

丁度日本のブランドの洋服を好きになれないのと同じで、深い意味があるわけではない。単に趣味、趣向の問題であり、僕にとって車選びはライフスタイルのファッションの一つに過ぎず、洋服や家具を買うのと同じ目線で選ぶからである。

家人の常云言うところのキリギリス生活をしてでも、どうしてもトヨタ、日産を買う気にならなかったのである。(今後はどうなるか、分かりませんが、、。)

それだけのことである。

フェアレディZは、当時はプアマンズポルシェと言われていたが、どちらかといえばデザインは、ジャガーEタイプの真似ではなかったかと思う。

走りが、ポルシェと比べてどうかは、当時はポルシェなんて触ったこともなかったから何とも言えない。

とりあえずZは、良く走ったと思う。振り回すと自分の思いのままになるというような、小回りが利き、小気味の良さがあった様に思う

息子が一才くらいで、片言に「ふぇあれでぇぜっと」と言って、祖父母を喜ばせていた記憶がある。

子供はすぐに大きくなる。家人の膝の上ではおさまらなくなって1,2年ほどで、ベンツ450SLCにしたように思う。(この経緯はベンツ450SLCの所に書いてあります。)

この時代は、個人的に、ともかく仕事が忙しい時期であり、この車の思い出というか、記憶も殆ど無い。

多分、人生で一番働いた頃で、走っていたのは車ではなく自分自身だったのである。

家族で出かけることも殆ど出来なかったし、従ってZの写真も残っていない。

自分の興味が、目の前の仕事だけであり、やりたいことも山ほどあり、車なんかどうでも良かったような時期であったように思う。

母親が子供に没頭する時期があるように、男は仕事に没頭する時期があるのかもしれない。子供にとって母親の没頭的愛情時期がとても大事なように、人生にとって仕事没頭時期も大切ではないかと思う。

おかげで、当時の留学を挟んだ数年間の学問的貯金で、その後30年間に及ぶ、大学での形成外科生活を余裕で送ることが出来たように思う。

僕にとって、Zは陰画のような車だ。

その車を思い出すことで、車よりも印象深い、その頃の実生活を思い出すのである。

長いモラトリアムから抜け出て、好きな事がようやく見つかった時代。10代後半から15年くらい続いた自分自身の混迷の時代から抜け出た、解放感に満ちた充実した幸福な時代であったのだろう。

哲学者の木田元によれば、人は本当に好きなコトが見つかるまでは待つが良い、好きでなければモノにならぬ、という。

ものになった例として、木田元先生の教え子で、大学の哲学科を卒業してから、輪島塗の塗師になった人が居ると、「哲学は人生の役に立つか』(PHP新書)に書いてあったが、それが、なんと僕の好きな赤木明登のことのようである。

木田元

木田元

 

赤木明登には、「美しいこと」(新潮社)と言う装丁も美しい素敵な著書があり、折に触れ再読しているのだが、職人にしては、ずいぶん哲学的な思考をする人だなあと思って読んでいたが、納得である。

内容は「モノ」の本であるが、タイトルは「こと」となっているのも、それらしい。

赤木明登:美しいこと

木田元によれば、待つと言っても、ただボーと遊んでいては駄目で、見つけたいものが何であるかと飢えた獣のように、悶え苦しんで待たねばならないのだそうだが、僕は呑気に遊んで待っていたから、見つかるまでに、徒に時間がかかったのだろう。

あのころは「美しさ」なんて、女の子以外には、興味もなかったし、求めてもいなかった。

今思えば、僕のモラトリアムは、能天気な分、お気楽な人生を送っていたように思う。

その分、その後、いやというほど人生の苦しみを味わうことになるのだが。

だから、お気楽に遊べるときには、遊ぶが良い、というのが僕の人生観であり、息子もその様に育ててきたし(バイトをする暇があるなら遊びなさい。小遣いのためなら、小遣いはやるから、バイトはするな、というようなデタラメというか、つまりは全くの親の責任放棄で。)、今でも、常々その様に生きるように薦めている。

放っておいても、時期が来れば没頭すると思うからだ。

息子は、丁度今がその時期のようで、親としては喜ばしく頼もしくも,相変わらず無責任に唯、見ているだけなのである。

追記:僕の買った国産車は2台でした。先に書いた、三菱ジープが最初でフェアレディは2台目でした。大変失礼しました。

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