美ヶ原の麓にあたる、松本浅間温泉から30分ほど登ったところに扉温泉がある。
ビーナスラインの扉峠から松本に向かうヨモギコバ林道に入り30分ほど、わが山荘から1時間足らずのところにある、何の特徴もない山間に、
公共の日帰りの温泉施設、檜の湯と、湯元の群鷹館と明神館があるだけの温泉だ。
しかし温泉通の方なら明神館が、一度は行ってみたい温泉ベスト00には常に入っている事は御存じのことかと思います。
近いので、じゃ明日にでも行ってみるか、と思い立って予約してもいつも
満杯で取れなかったので、今回は1カ月前から予約して漸くいくことが出来ました。
明神館は谷間の小さな川沿いにあり、取り立てて、どうという建物ではありませんが、道沿いからガラス張りのフレンチレストランが見えるのが奇妙に見えました。
少し離れた駐車場までお迎えがあり、玄関に一歩足を踏み入れると、
凛とした緊張感の中に、上質な旅館がかもし出す独特な空気を感じました。
そういえば最近は高級旅館に縁がなかったなあ、と改めて思いました。
ロビーはシノア風のデザインのところにオールドイングリッシュの家具が置かれ、床の間もあったりして微妙なバランス感覚であったが、フリードリンクのアイスティはとてもよかった。
ここでチェックインの13時まで待たされた。
予約できた部屋はツインベッドの洋間であったが、居間は大きな硝子窓で山に向いあって開放感にあふれており、おまけに暖炉やミニバーも付いていて、部屋の趣味はいっぺんで気に入った。
寝室は無垢材のフローリングで素足にも心地よく、オーディオのアンプは真空管というこだわりようであった。
温泉旅館でベッドの洋室というのは初めての経験であったが、いつでも横になれるというのは、改めて便利であると実感したし、特に風呂上りにゆっくり休めるのは大変良かった。
和室となると、わざわざ頼んで布団を敷いてもらうことになる。
扉温泉は、天岩戸の扉に由来するというほど歴史のある温泉らしいが、
湯は単純泉で柔らかい優しいお湯であった。
風呂場は4か所あったが、一番はお湯の水平線が森に流れ込む立ち湯で、他の寝湯も大浴場もデザイン性も高く清潔感に溢れ満足のいくものであった。
食事は、フレンチ,懐石、モダン和食の3種類から選択できるのだが、
フレンチ、懐石の順で人気が高く私達は、もっとも席数の多いモダン和食であった。
食堂はテラス席もあったが、やはり、そこから埋まるらしく私たちは普通の室内席であった。
テラスの窓が一部開け放たれており、山の冷気が入りこみ、ひんやりと涼しく感じるのだが、不思議と虫が入ってこない。
何かうまい工夫があるのだろうが、聞いてみようと思いつつも、酔いに任せて忘れてしまった。
次回の機会があったら、是非きいてみよう。
食事は丁寧に工夫がされた、かなりレベルの高いものであった。
野菜のスープ鍋のスープの旨さが特に印象深かった。
伊豆箱根のいわゆる高級旅館の中でも、頑張っている部類に入るのではないかと思う。
サービスもよく行き届いていた。
明神館の雰囲気は、私の知ってる範囲では栃木県那須の二期クラブに近いか。
もっとも、二期クラブは建物の外の景観まで独自のデザインにしているが。
客層は、特に目立った階層がいるわけではなく、千差万別であった。
いかにもワケありのカップルもいたが、もう少し振る舞いさえ粋で上品であれば、場の雰囲気を壊すものでもなかろうに、と思ったが、そこはやはり都ではなく信州の限界なのだろう。
登山で、下山してきて里山にかかると、人家に出くわすが、丁度そんな具合に明神館はある。
しかしながら、近所にある“檜の湯”とは全く別空間として存在している。
最近、破竹の勢いの星のリゾートが、界シリーズを名のって、上質な設え、サービス、食事を売り物にして全国各地で展開しているが、あのやりかたでは、どこに行っても、その地方に行った、というより、界に行ったということになりはしないだろうか。
これは高級会員リゾートクラブでも同じことが言えるのではなかろうか。
マニュアル化された高級感では喜びも感動も薄らぐのではないかと思うが、いかがだろう?
明神館のコストパホーマンスは非常に良かった。
最近のヒットと言っていい程である。
明神館、二期倶楽部は、いつまでもその地方にあってこその、スマートさと個性的であってほしいと願うのは私だけではないと思う。