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初めての東京芸術劇場―アル☆カンパニーの「父よ!」を観た

父よ!

父よ!

愛知県の豊橋市がスポンサーの[とよはし芸術劇場PLAT]がプロデュースし、劇団「ONEOR8」の田村孝祐が演出した、俳優平田満の劇団「アル☆カンパニー」の『父よ』が東京芸術劇場シアターウエストで、2年ぶりに再演(2015.10.2-12)されたので観に行った。池袋にある東京芸術劇場は初めての訪問であった。池袋自体がおそらく20年ぶりということもあってか、その様変わりには驚いた。また地下鉄駅からそのまま芸術劇場に入っていけるアクセスの良さにも感心した。
 「とよはし芸術劇場PLAT」が主催とあるのは、平田満のプロフィールには愛知県生まれと書いてあるが、実際は豊橋市生まれで、その関係があるのかもしれないと推測されるが、本当のところは知らない。

 四人の息子達が、老いた父親の面倒を誰が見るかを決めるために実家に集まって、話し合いをすることで話は展開して行く。
先に逝った母親との回想シーンで父親の意外な一面が暴露されたり、息子たちも語るうちに虚飾が剥がれ、ほんとうの姿が暴かれていく。
 一人が何役もこなして、回想シーンを巧みに取り入れながら進行して行くシナリオの巧みさは、演出家田村孝浩の才能を感じさせるものであった。

舞台シーン

舞台シーン

 喜劇と聞いていたが、人生哀歌であった。僕もそうであるが、おそらく家族を持つものすべてが身につまされる話だ。
 親を思う気持ちはあっても、現実の生活の中では、なかなか両立できない世間のどこにでもある葛藤を描いているが、小劇場出身の個性的な芸達者な俳優たちの競演が、この舞台のただでさえ陰鬱なテーマをコミカルに仕上げ、気分が滅入るのを救ってくれている。
 しかし、コメディタッチで描くからこそ余計に哀しくなる面もあるのも事実だ。
 結局は、肉親の間といえども、いや、それだからこそ一層、人間の孤独が深いものであることを知らされるのである。

出演者

出演者

 ここでは、老老介護、熟年離婚、等の時代性と、親、老人の面倒を見るという普遍的な問題を扱い、世に問うているのである。
 母親の遺言「ケンカは相撲で決めろ」、というのもいい。今日の政府の示す積極的平和主義が戦争を想定して軍拡に参入して行く姿を皮肉っているようでもある。
 そんな終始一貫したネガティブな気分は、最後に父が亡き母(妻)の仏壇の前で手品をするシーンで救われる。夫婦の情愛こそが生きる絆であるかのように、隠れた趣味特技であった手品を燕尾服の正装をしてやってみせるのである。そこで初めて、舞台中では終始会話の中でしか登場しなかった「鳩」が実物として姿を見せ羽ばたいたのである。憎い演出であった。

 僕には、手品のシーンは、まるで父親が能を舞っているかのように思えた。父親がシテとなって母親(妻)の霊を呼び、母親が鳩になってワキを演じたかのように。
 ちょっと感動的であり、感傷的でもあった幕切れであった。

 

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