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形成外科と整形外科そして美容整形(美容外科)の違い

私が形成外科医であった頃、よく「形成外科は何をする外科?」と聞かれたものだ。そして「整形外科とは何が違うのか?」、また「美容整形と何が違うのか?」とも尋ねられた。
その事情は今でも大して変わっていないように思えるので、ここでわかりやすく説明しようと思う。

まず形成外科であるが、これは人の外表の変形(足の指先から頭のてっぺんまでの全て形)を治す外科のことである。主として4つの分野に分けられる。①は先天性の変形(以前は先天奇形と言った)の修復・再建。手足の指の変形、ロート胸な胸郭の変形、唇裂・口蓋裂や頭蓋縫合早期癒合症など頭蓋・顔面の先天性変形などがある ②は外傷による変形の修復・再建(交通事故、戦争や災害によるケガによる傷や変形)。顔面・頭蓋骨の骨折も扱う。③ガン手術後の変形の再建。乳がんによる乳房切除後の乳房再建、耳鼻科・口腔外科領域の癌手術に際して顔面、口腔、舌、下顎・上額骨の再建、食道がんの食道再建、泌尿器科・婦人科領域の外陰部の再建(性転換も含む)、皮膚科では皮膚がん等によるあらゆる部位の皮膚の再建など、ガンに限らずあらゆる病気による外表の欠損、変形に対応する。④が美容外科(美容整形)である。美容は病気ではなく、健康で正常範囲の形態をより美しくしたいという要求に応えて行うものである。
形成外科は、かつては外科系各科で片手間のように行われていた領域を統合して一つの専門領域として独立させた外表の形の外科である。

整形外科は一言で言うなら、運動器の機能の外科である。四肢の骨格、関節、筋肉、腱、神経の損傷や病気を外科的に扱う。古くは整骨が扱っていた骨折、捻挫、腰痛などを医学分野として外科から独立したのが初まりである。整形外科では骨折、脱臼、捻挫の他に関節の損傷・変形や筋軟部組織の腫瘍、抹消神経の損傷などを扱う。脊髄は中枢神経であり本来は脳神経外科の領域だが、わが国では整形外科が一般的になっている。研究分野でも最近話題のiPS細胞による脊髄神経再生医療も整形外科で行われている。近年では手の外科、足の外科、リハビリ医学、スポーツ医学などが専門分野となって独立してきている。

美容外科(美容整形)は、健康な外表の形態をより美しくする目的で行う外科であり、本来形成外科の一つの領域であるが、わが国では欧米とは異なった発展経緯がある。形成外科が出来る以前は耳鼻科、眼科、整形外科、皮膚科、産婦人科、泌尿器科、内科、麻酔科などの様々な臨床分野を出身母体とする医師や殆どどの分野の臨床経験も無いような医師たちが、欧米の文献を頼りに見よう見まねで、あるいは我流で始めたのが初まりであり、その後同様の経歴の医師たちが美容整形クリニックに弟子入りするようにして継承して来た。我が国特有の社会観、道徳観からか、美容整形は長い間社会的に受け入れられず、また手術が余りに医学的ではなかったり、医師の倫理性も高くなかったりもして(松本清長の「黒革の手帳」の悪徳医師のモデルにもなった)、医学の本流から外れ、どちらかと言えば、裏通りでひっそり開業していたのが実態であった。我が国に米国流の形成外科が導入され大学医学部に形成外科が設立されるようになったのが約50年前であり、その後形成外科専門医が育ってくると一部の形成外科医師達が美容外科を専門にするようになった。そうして美容外科の世界は、旧来の美容整形外科医師グル―プと新しく進出した形成外科出身の医師グループの二つに分かれ、二つの美容外科学会が併存したが、現在は旧来のクリニックに形成外科専門医も流入し混在状態となり、学会も一つにまとまろうとしているようである。
やがて社会もSNSが出現し、‘インスタ映え’など見た目が重要視され、‘いいね’を競うなど承認要求が高まってくると、美容整形外科はかつてなく関心を持たれる時代になったのである。

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