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新潟行形亭?元禄創業の老舗料理を謎の美女と味わう

縁あって新潟市の行形亭(いきなりや)に行った。
目的は、表向き仕事のような、遊びのような。
日頃、仕事ででもなければ一人で泊りがけで出かけることはないから、やはり仕事であったに違いない、と思う。
新潟は、これまでほとんど縁がなく、医者になりたての頃、新潟大学が形成外科学会をやり参加したことがあったが、所詮、学会というものに慣れておらず、街で遊ぶ余裕もなかったので、ほとんど記憶にない。
あとはアデランスの顧問をしていた時期(モデルではありませんよ、技術顧問です。)があり、新潟村上に工場があるということで、工場見学と称して、村上温泉に招待されたことがあった。海の波涛が押し寄せるような露天風呂に雪の降る中で入った思い出がある。また古い料理屋で鮭料理をごちそうになり、鮭は新潟でも採れるのだと感心した覚えがある。その後、加島屋の鮭茶漬けが世に出て、すっかり馴染みにはなりましたが。(但し、加島屋の鮭は新潟産ではありませんよ、瓶にそう書いてあります。)

そう言えば、ちょうどその頃、ブラジルからの留学生が慶応の形成外科教室に来ており、一緒に連れて行った覚えがある。温泉と料亭というところが初めての経験で、ずいぶん喜んでいたなあ。彼は帰国後出世して、10年後位にブラジルで国際学会があって行った時には空港に出迎えてくれたり、自宅に招いてくれたりと、ずいぶん歓待してくれた。形成外科時代の懐かしくも、いい思い出である。

さて今回は、新潟のもっとも名のある料理屋をということで行形亭に行った。
門をくぐると、右手に茶店風の建物があり、まずはそこで一休み、お茶が供される。
客の人数がそろうまでここで待つという手筈のようであり(いわゆるウエイティングバーのようなもの)、お蔭で写真のような美女としばらくの間二人の時間を持つことができた。

門をくぐるとレセプションの建物があります

まずはお茶を一服頂きます

 

この建物には人力車が置いてあり、かつては客や芸者がここで身支度を整えて乗ったのであろうと想像するだけでも楽しい。座敷には囲炉裏が切ってあり、お点前のお道具が置かれていた。

さて人数がそろうと、庭に出て、一画に設えられた流しそうめんの仕掛けで、そうめんをほんの少し食べる。ひとり2回分だけ。初夏の花が咲き誇る、歴史の重みを感じる庭を楽しんでから、部屋に案内されるという寸法なのである。

元禄創業の風格

流しそうめんの風流を味わってから

部屋は離れ風に独立しており、私たちが通されたのは、東郷平八郎が好んで使ったという、目の真ん前に樹木が迫る2階の間であった。
輪島塗の丸い欅の大きなテーブルであったが、テーブルの脚が短くて足が窮屈
であったが、テーブルが重すぎて持ち上げられない?から容易には足を足せないとの説明であった。
献立表には菖蒲月17日とあり、毎日書くようである。

献立表

コースターCIMG1392

 

お酒は私は地元のワイン、Fermierのchardonnayの白で、お嬢様方は新潟っ子らしく〆張り鶴吟醸を注文した。
最初に枝豆が出された。当地では有名な弥彦娘という銘柄の初物で、本当に本日からとのことであった。
静岡清水の枝豆や茶豆に比べるとやや豆の味わいが弱いように思えたが、場の雰囲気がいいだけにそんなことはどうでも良く美味しかった。

お料理は八寸、吸い物、お造り、焼き物、煮物、酢の物、と型通りの運びであるが、名物は吸い物の“鳥もち”とのこと。

名物とりもち

もちを鴨肉で巻いたものが、ごぼうや三つ葉の椀仕立てになっており、やや濃いめの鴨の出汁が印象に残った。
もう一つの行形亭の名物料理は“かしわのみそ漬け”で、みそ風味の味付けをした雛鳥を油で揚げた一品であった。
刺身は南蛮海老があり、焼き物はのど黒と、魚のこだわりは新潟らしかったが、渡り蟹はボソボソでダメだった。個体の運が悪かっただけかもしれないが、季節がどうなんだろうか。

大女将と

姫は東郷平八郎の席で凱旋将軍の気分。実は右側が社長です

 

食事が終わると、また入り口の茶店風の建物に移動してタクシーが来るのを待つという段取り。帰りは囲炉裏の傍に座ってみた。美女が隣に座ってくれるというサービス付であった。美女は性格も優しいのである。

タクシー待ちのひと時

さて、諸兄は、ユング心理学のアニス、アニムスという無意識の原型の話をご存じだろうか。
男は無意識領域では女性であり、自分に欠けるものを補償するかのような女性のイメージを無意識下で持つそうだが、それにぴったりの女性が目の前に現れると、それが意識下で心像として浮かび、相手に投影され、強いインパクトを受けて恋におちいるそうであり、いわゆる一目惚れになるという。
この短い時間の内に、この謎の美女は僕のアニスであるのかと反芻し、ユング理論を復習しながら、とうとう僕はアニスを見つけたゾと、何度も何度も確信したのである。
しかし、たとえそれが真実であったとしても、話はそれ以上に進展しようもないのが自分の現実なのだと、また何度も何度も確信したのでありました。

行形亭の料理は概していえば、グルナビの評価が低かったせいもあってか、期待以上に良かったと思う。
今回食べたのは松コースであったが、正直をいえば、CP(コストパフォーマンス。クロルプロマジンChlorpromazineではありません、ましてや口蓋裂Cleft Palateでもありません。)は東京赤坂の菊の井の方がかなり良い。
しかし広大な庭や重要文化財指定の建物や、300年の歴史に触れるのも食事のうちと考えれば、納得のいくものではありました。

ましてや、今回は食事のお伴が良かった。きっとお店が、たとえファミレスであっても同じように満足したのではないかと思われるほどに。

この体たらくでは行形亭の〆になりませんね。いやいや今回ばかりはご容赦のほどを、平に平に。

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