季節の変わり目は食材が教えてくれる。
冬の終わりを知らせてくれるのも食材からである。
フキノトウや、早堀の筍が料理屋で出たりすると冬も終りだな、と思う。
今は、スーパーでは一年中同じものがあるので、季節感を感じるのは難しくなった。それでも旬のものはどこか存在感が違う。人間で言えばオーラがあるとでも言おうか。春の知らせは、菜の花であったり大きめなハマグリであったりするが、なんといっても、フルーツトマトが出回ると、風も緩んで、日差しも春を感じさせるようになる。
一昔前は、フルーツトマトと言えば、高知の特産品であったが、最近はいろんなところで栽培されているようだ。
僕の故郷の愛知でも作られており、2月の中旬を過ぎると、豊橋の知人がトマトの箱を送ってくれる。
ありがたいことである。
今や高知産に勝るとも劣らない出来栄えである。
フルーツトマトは、名前の通りそのまま食しても甘くて、もちろん美味しいのだが、料理に使っても美味しい。
僕は、なんといっても冷製パスタがお気に入りである。
トマトを使った冷たいパスタは、僕の知るところでは、かつて原宿にあったバスタパスタの山田ひろシェフのオリジナルらしい。
渡り蟹のパスタとともにバスタパスタの人気メニューであった。
彼はその後、‘ひらまつ’の‘ヴィノッキオ’に移り、やがて独立しレストランヒロで名を成したが、その後天才シェフゆえの個性が時々災いしたようだが、今は銀座の?ヒロソフィーで復活している。
ざる蕎麦にヒントを得たという、トマトの冷製パスタは、やがて日本が誇る、イタリアンの不動のメニューになり全国に広まった。
ヴィノッキオではキャビアの冷製パスタも話題になった。
あれは旨かった。キャビアはグラム売りであった。
逆に、今では日本蕎麦にもトマトを使うメニューがある位で、麺とトマトの相性はいいようだ。
さて、材料は、トマト、大きさによるが、一人分で1,2個。スイートバジル適量、ニンニク1かけ、オリーブオイル、ワインビネガー、塩、こしょう。
下ごしらえをする。トマトは湯?き(頭にペケを入れ沸騰した湯で約10秒転がすと、水で流しただけで、自然に剥けるよ。)をし、6?12等分にくし型に切っておく。バジルは手でちぎる。にんにくはみじん切りで用意する。
作り方は、?くし切りにしたトマトにビネガー、オリーブオイルを1:3の割でかけ、塩コショウをして、ちぎったバジルを入れ良く混ぜる。両手ですくい上げるようにしてかき混ぜる。ポイントは乳化するまでまぜることである。乳化はエマルジョンと言って化粧品用語でもあるが、トマトから出たジュースとオイルが混濁した状態を言う。
これを冷蔵庫で冷やしておく。食べるしばらく前に作り置きしてもいい。
?パスタは、原則細いもの、カッペリーニが定番である。茹で加減はアルデンテではなく表示時間以上に芯まで良くゆでる方が良い。茹でた後、冷水で洗い、締めるので、茹で過ぎ位が丁度良い。
アルデンテでは冷やすと芯が残りすぎてしまう。
水温は、春先の水道水位が目安である。春先に氷水を使うと冷えすぎてしまう。
パスタの水は出来るだけ良く切ることがポイントである。水が残っていると、ソースがだらけてしまう。
僕はサラダの水切り籠に洗ったパスタを入れて水切りをしている。
これは、なかなかいいアイデアと思っている。(ラーメンの湯切りもなぜ遠心力を使わないか不思議であると常々思うのであるが。)
?パスタをお皿に盛り、マリネしたトマトソースをたっぷりかけて食べる。好みで、上からオリーブオイルをかけても良い。
パスタをトマトの入ったボールに入れ和えてからめる方法もある。
スイートバジルは嫌いな人もいるので、必須ではない。入れなくとも十分美味しい。
スイートバジルが希少な頃は、これが無いとイタリアンにならないと思ったものだが、今や、どこででも手に入るようになると、無ければ無いでいいではないか、と思うようになった。
ちなみに我が家では家人が嫌いなので、入れないことの方が多い。
この料理のレシピのサマリーは、フレッシュトマトを湯剥きし、くし切りにする。みじん切りにした生のニンニクとスイートバジル加えたオリーブオイルでトマトをマリネして、冷やしたカッペリーニに絡めてソースにする、ということになる。
これも、僕の得意料理の共通項である「簡単、早い、旨い」の条件を満たしている。
ところで、ブルスケッタと言う、トラットリアやピッツェリアなんかで出てくるイタリアンのアミューズのような料理をご存じであろうか。
そう日頃、自分で料理をする人には、すぐに気が付かれたことと思うが、このブルスケッタと同じなのである。
ブルスケッタは、こんがり焼いて、ニンニクをこすり付けたバケットの上に、トマトをスイートバジルと一緒に生のニンニク、オリーブオイルでマリネしたものを載せただけものである。
今回の料理は、ブルスケッタのバゲットをパスタにしただけのことである。
天才のやることは、決して難しいことではない、ちょっと発想を転換しただけのことであるが、これがなかなかできないから我々は凡人のママなのである。
従って、トマトはフルーツトマトにこだわることはなく普通の桃太郎でも良いことになるが、ここは、やはり甘いフルーツトマトにこだわりたい。
なぜなら、そうでなければ、「春の訪れの、あの怪しいときめき」を感じないからである。