ホームへ戻る

「すし家」―とうとう見つけた行きつけにしたい鮨屋

行きつけにしていた、赤坂の鮨屋「喜久好」が店を閉めて暫くになるが、この間あちこちと放浪していたが、とうとう腰を据えてもいいかなと思う鮨屋が見つかった。

銀座6丁目泰明通りにある『すし家』である。

 何がいいかというと、すしの好みが合うのは無論だが、親方(といっても30歳を超えたばかりの青年だが)の人物がいい。

 まず鮨であるが、シャリの感じが好みに合う。酢加減、ぱらつき感、温度がいい。車海老(巻)の茹でたての暖かいのも好みに合うし、煮蛤の味付けもいい。雲丹は基本的には握って出す。
 鯖の棒鮨は家人が2つ無理を言うほどの逸品。卵焼きは、焼いた感じがしないスフレのような味わいで、僕の好みではないが、それが、今の主流だからか人気らしい。巻物は海苔の香りが弱いのが残念かもしれない。
 シャリの大きさは、「喜久好」が、食エッセイストの宮下裕史の表現では、男鮨といわれるように大振りなのに比べると、今風に小ぶりで女鮨の部類だろう。

 いずれにしろ、それらは人それぞれの好みであるから、良し悪しではない。

 次に親方石山氏の人物であるが、武骨な大きな手をしているが仕事は繊細である。
 客の事をよく記憶しており、おつまみにしても、日が浅ければ、前回とだぶらないように気を遣うことが出来る。
 若いが勉強家で、休みは先輩職人の鮨研究に余念がない。
 向上心があるのである。
 そして何よりも,一番大切な要素である心配りが出来るのが、特に良い。
 腰が低いのは当然にしても、特に老人(私のことではないよ。)に優しいのは、それが上辺だけのものでないことがわかり、心が洗われるような、気持ちが良いものだ。
 偉そうな金払いの良い客だけに、気が回るのとは大違いである。

 また二人の従業員に対する目配りも怠りない。阿吽の呼吸で、仕事が流れている。

 一言で言うと鮨屋のオヤジになるべく生まれた、出来過ぎではないかと思うような今時珍しい青年で、これは、やはり天性のものだろう。

 「すし家」に決める前に、ダメ押しで最近話題の3軒に行ってみた。

 まずは有名になりすぎた、今を時めく「次郎」の「六本木店」。
 握りは本店をそのまま継承しており、やはり美味しい。
 問題は親方(次郎さんの次男さんのよう)の言動。客の前で使用人をしかるのは良いにしても、もう少し爽やかに注意出来ないものかと思う。客の方が、いやな気分になってしまっては、元もこうもないだろう。

 数寄屋橋の次郎さん本人は、穏やかな人であったのになぜだろうと思ったが、ひょっとして、「次郎」の職人で一番感じの悪かった、今は横浜から銀座に戻った「M」の影響か?真似することはないのに。

 神宮前の「おけい鮨」のオヤジもすごかったなあ。驚いてあれから行ってないが、変わらず怒鳴り続けているのだろうか。

 2軒目は銀座1丁目の『鮨たかはし』である。「かねさか」で、すし家I氏のちょっと後輩らしい。
 「かねさか」の一番弟子、「さいとう」にも教わったらしいので、I氏と同類の経歴であり、「すし家」と同じような鮨を出すが、たかはし氏はまだ20代後半と若い。
 一言でいうと若すぎる。独立するのはもう少し後で良かったのではないかと思うのが正直な感想である。ただし、店の構えは立派である。

 3軒目は『鮨ます田』。こちらは「すきやばし次郎」から独立した30代半ばの若主人の店。
 インテリアは、なぜか「たかはし」とそっくりで、同じデザイナーによるものか。
 主人は寿司職人らしいきりっとしたイケメンで、手つきも爽やかで、所作は一番美しいかも。
 握りは、やはり次郎風で美味い。
 しかし、残念なことにお店のマネージメントが苦手らしい。使用人も4,5人はいて、4軒の中ではマンパワーは一番多いにもかかわらず、サービスの手際は一番悪い。
 イタリアン風の黒服を着た女性が、お茶を継ぎ足すのは、余りにいただけない。

結論を言うと、(極めて個人的な感想ですが、)

 味は、「次郎六本木店」≒「鮨ます田」>「すし家」>「鮨たかはし」、の順か。
 お店の雰囲気は、「すし家」>『鮨たかはし』>「次郎六本木店」>「鮨ます田」
 お値段は、「次郎六本木店」>>『鮨ます田』>>「すし家」>「鮨たかはし」
であり、

 総合評価ではやはり、「すし家」が一番になった。ともあれ、クォルテ・オ・プリが最も良い。

 「すし家」はまだこれからの成長を感じさせるし、早晩石山氏も独立するだろうから、今後を見る楽しみもある。

 まあ、余談を言うなら、お店に入った時に季節感を感じさせる「和」のしつらえがあればさらに良いかと思う。
 花であれ、絵であれ、オヤジの趣味の良さ、教養の深さを感じさせるものが滲み出るようになれば、もっと出向く楽しみが増えるというものだ。

 その点「喜久好」の清水氏は、奥方と二人だけで切り盛りしつつも、凛とした静溢な雰囲気の中で、流れるように仕事が進み、客を手持ちぶたさにさせることは決してなかったし、季節ごとに変わる絵の趣味も良かったし、いつも見事な和花が目の前に生けてあった。

 客とゴルフ談義に花を咲かせ、手が休むようなオヤジの握る鮨は、やはり2回目は無かったし、
 常連や同伴が異様に目立つ店も2度目は無かった。
 タバコは論外にしても、携帯を使わせる店も2度目は無かった。
 どんなに味が良くてもそれは我慢できない。

 さて、客の立場をいいことに、言いたい放題書いてきたが、お店と客の関係は、客からの一方的な関係ではないということも心しなくてはならないだろう。

 店も客を選んでいるのである。客層によって店の雰囲気は随分左右されるから、当然のことである。
 こちらも,行った店の客層が自分に合うかどうかは、2回目がありかどうかの大きな判断材料になる。
 客も店から大事にされるためにはどうゆう振る舞いが大事か勉強し、努力する必要があると思う。

 料理の種類を問わず、客も店から歓迎されて、ソワニエシートがもらえてこそ、料理も、本当に美味しく楽しめるというものであろうと思う。

 

ログイン