半年ぶりに南青山、根津美術館裏のプリズマに行った。友人のお誘いを受けてのことであった。ま、プリズマ仲間である。
私達の前回の訪問は3月であったので(グルマンライフ2015.3.11.参照)、その時は春を呼ぶ瑞々しい早春の食卓であったが、今回は秋の訪れを感じさせる落ち着いたシックな初秋の食卓であった。
それにしても、斎藤シェフの料理は行く度に進化していて驚く。
秋トリュフの始まる頃、この時期が彼の最も力の入るシーズンであるが、あの修行僧のような姿形と、トリュフの妖しい香りとは、どうにも似つかわしくないから面白いものである。
ま、私達もトリュフの色香、妖艶さとは無縁の存在であるから同類ではあるのですが。
今回私達が食べたトリュフは、どうもプリズマの入荷第一陣の最後のトリュフの様であり、丁度、お店がはねる頃、第二陣の入荷があり、偶然その瞬間に立ち会うという奇遇を得ました。
思い出すに、同じ様な光景に以前も立ち会ったね、と連れが申しましたので、今回はその風景を写真に収めました。どこの食品輸入会社か知りませんが、ALBAと銘打った木箱に入れて恭しく持ってきて、斎藤シェフのお眼鏡にかなうものか、お伺いを受けながら、取引をするという風情でした。
本日のお買い上げは持ってきた3個すべてでした。良かったですね。
プリズマも盛況を伺わせ何よりでした。
トリュフの妖艶な香りは、フランス貴族の妖しい自堕落な生活を彩る媚薬のようなものであったのでしょうが、私達は初孫を待ちわびる二組の老夫婦であり、そのような用途とは残念ながら無縁ですが、それにしても,秋の白トリュフは、いたく鼻腔を刺激するものですね。
鼻炎や何かで嗅神経の機能していない人は決して食べてはいけません、治してからでないともったいなさ過ぎますから。
それにしても、秋は洋の東西を問わずフンギ(菌)、キノコが美食の中心になりますね。日本の丹波の松茸、大黒シメジ、ポリチーニ、(仏セップダケ)と、思い出すだけで心が騒ぎますね。
さて、それでは斎藤シェフの今回の渾身の料理を紹介します。
1)トマトのジュレとモルタデッラのムース
なぜか白いトマトのジュレに,エミリアローマニャ地方の郷土料理ボローニャソーセージのムースが乗ったアンティパスト。ソーセージの脂肪がトマトのジュレで中和されるさわやかな一皿目。
2)エシャロットのスフォルトマートとキャアビア
スフォルマートは、溶いた卵ににハム、チーズ,野菜を入れてオーブンで焼くグラタン風の料理を言うらしいが,ここではまるで茶碗蒸しのように仕上がっており,上にのせたキャビアが贅沢感を演出し,心憎い一皿になっていました。
3)佐渡島産黒イチジクとクラッテロ ディ ジベッロ
皮が薄いのでそのまま食べられる佐渡が島産の黒イチジクの上に,生ハムの最高峰、パルマはジッベロ村産の豚を使ったクラッテロ(熟成12ヶ月以上の生ハム)が乗っていたお皿。スペインのハーモン・イベリコ・ベジョータだけが最高峰ではなかったのですね,初めて食べました。イチジクも故郷の愛知産のものしか知らなかったので、思わぬ強敵が現れた印象でしたが、食べてみると、皮があるかないかの薄さで、実も締まり、味も濃く、愛知を遙かに凌駕しており,これが生ハムの塩分と良く調和していて、全員が唸るほどにショッキングなほどおいしかった。
4)クロアワビと京子芋とのアロスト、肝ソース
山口産?のクロアワビと子芋を蒸しアワビのように、蒸すか茹でて、それを軽くアロストしたものであろうが、プリズマの前身ペルゴラ時代の初期にココット仕立てにしたアワビをよく食べたが,その懐かしさが蘇ったが、アワビは数等レベルアップしたものになっていました。千葉のマダカのアワビを彷彿させるように肉厚で柔らかく、かつ表面がこんがりローストされていて、これはまさに異次元のうまさでした。肝のソースがいいですね。イタリアンだからこそ出来る技ですね。また子芋との組み合わせが,秋を感じさせて粋でした。
5)白トリュフのタリオリーニ
この一皿のために来店する客がいるほどの(私達も経験がありますが)、プリズマの看板料理。トリュフを引き立てる様にタリオリーニは細めに打たれており、今年のトリュフは香りも一段と強く,文句のつけようもない芳醇な一皿でした。
気のせいか,マダムのスライサーもやや厚めの設定だったような気がしました。
前にブログに書いたせいかなあ、マダムごめんなさい。<グルマンライフ、2013.12.9>
6)トマトとカザッテラチーズのラビオリ
薄い、薄いワンタンを連想させる様なラビオリでしたが。ここまでの料理で、かなりパンチを食らっていたせいか、カザッテラチーズがどんな味であったか、ソースが何であったかは忘れてしまいました。ただ、繊細さが印象に残った一皿でした。
6)リクリツィアのグラニテ
お口直しのグラニテは、甘草味で胃も一休み。
7)小鳩のアロスト
メイン料理は、5種類の中からチョイス形式で。
鳩は二人前以上とあったので、私は友人の奥方と組んで、ランド産の鳩にしました。
推測ですが、おそらくソースはサルサペヴェーラータ。文句のない焼き加減。
8)利平栗のフリットと白トリュフ
デザートもチョイス。
一皿目はシェフの気配り。はち切れそうに実の張った焼き栗にトリュフをかけていただきます。これがまたよくマッチングしているから不思議。
9)キャラメル風味のクレスペッレと白トリュフ
二皿目はクレープにトリュフをかけて。
10)ババと黄金梅
これは、連れの選択。サバランである。スポンジに含まれるアルコールが梅酒なのか?
11)フレッシュミントティとお茶菓子
焼き菓子が7種とホオズキの砂糖菓子。すべて手作り感のあふれる可愛らしいお菓子。ほぼ定番のものですがホオズキは特に他では味わえないものなので、いつ来ても美味しい。
そういえば、先日蓼科農場で、食用ホオズキを売っていたが、あるものなんですね。
カップはジノリ。最近はカトラリーにもこだわりが見えるようになり、これも楽しみになってきた。本日のプレートもジノリと見た。
今回は、これでfini。
年を取ったせいか、ワインも白を1本とバローロの赤1本を飲んだだけで、かなり酩酊し食後のスピリッツはなしで直帰しました。
アルコールは量を飲めばいいというものではないが、年を重ねるにつれ自然と酒量は減るもので、老年期の下り坂を実感しつつ帰路に着きました。
当日は私達4人の他にも二組のテーブルが埋まり、ほぼ満席状態でしたが、、相変わらずシェフとマダムの2人3脚で切り盛りされていました。それでもサービスは滞ることもなく、スムースに流れるから驚異です。
少々お疲れ気味のシェフと溌剌としたマダムのお二人の健康を御祈念します。
私達の余生の幸福な時間のためにも、心から。
ごちそうさまでした。幸せな時間でした。