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京都「未在」から青山「宮坂」へ-「プリズマ」斎藤シェフ推薦の京懐石


プリスマの斎藤シェフがかねてより贔屓にしていて、絶対行くべきと、薦めてくれていた京都「未在」のスーシェフ(二番手板前)が青山根津美術館脇に新店を構えた。(本当は何番手であったかは定かではないが)
斎藤氏の紹介を受けて、この度訪問してみた。

 「未在」は、推薦されて間もなく、「ミシュラン京都版」が出るようになり、いきなり三ツ星をとったため、予約がすっかり取れなくなってしまい結局行かず仕舞いになったままであり、その味も雰囲気も知らないので、今回は、全く先入観なしでの初訪問となった。
 根津美術館の角の交差点を西麻布に抜ける道に入り路地3本目に立つビルの地下にあるが、店の名前も出ておらず、また入り口もそれらしくないので、割烹着のお兄さんのお迎えが無ければ、おそらく戸惑ったと思われる構えである。

インテリアは、旧家の御勝手場を連想させるかのように、漆喰が煙でくすんだのをイメージしてか黒漆喰で壁一面が塗られていた。飾り棚風なところが、床の間に見立てて一段高くステップが切られ、そこに掛け軸と生け花が置かれていた。書は茶事好みの趣味の良いものであり、投げ入れは椿の一輪であり、漆喰壁と良く調和し、ワビ、サビを上手く演出していた。
炭を入れた七輪が置かれた焼き場は黒光りした銅が漆喰の枠に塗られて区切られており、それが黒壁と色彩がとてもマッチし、デザイナーの非凡なセンスの良さが際立っていた。
カウンターは大きな一枚板であるが、木目が浮くようにはっきりしたもので、どうも檜ではないようであった。

まあ、一言でいえば東京ではあまり見ない新しい和のセンスの、ひいていえば京都「中東」の竃を連想させる素朴でありながら重厚で、さてここで何が出てくるかと大いに期待を誘う雰囲気をつくりだしていたのである。

 料理の献立は、食べログに既にいくつかのコメントで紹介されており、それと内容が同じだったので、ここでは説明は省くが、料理は総じて第一級のものであった。食材の選択では、京都の一流料理人のプライドが滲みでるものであり、野菜はすべて京都産を使うなどの京料理への強い拘りを感じさせたが、写メは禁止であったので、器や盛り付けのセンスをお見せできないのが残念である。
 しいて言えば、松葉ガニの真薯の椀は、最初こそ出汁の香りが強く鼻腔を刺激するが、カニをほぐすうちに、間もなく香りが立消えてしまったのは少々残念な気がした。
 器の趣味も良く、焼き物は京焼と唐津の新物を中心にかなり洗練されたもので揃えられていた。盆,椀などの塗り物もおそらく輪島の良いものであったろうと思う。箸はお約束の濡れ箸であった。
 アルコールは日本酒は辛口の良いものが揃っていたが、グラスワインはプイィフュメとあと一種類で、料理に見合うものではなかった。ワインはプリズマのマダムのアドバイスが必要なようである。  
 終わりのご飯の赤だしが、京都の八丁味噌との説明であったが、八丁味噌とは、三河岡崎市八帖町の2社だけが持つ商標であり、赤だし一般とは異なることをご存じでなかったのには少々、意外で驚いた。

 僕の好きな根津美術界館界隈にまた一つ目標ポイントが出来た。B&Bもフェラーリもエルマンノ、セルヴィーノもいつの間にか消えてしまったが、代わりにこうした名店が忽然と現れる。東京とは、誠にダイナミックで目の離せない街である。

 「宮坂」は、おそらく来年の11月にはミシュランの星をとり、やがて3つ星になろうかと予測させる店であったが、そうなればそうで予約が取れない店になってしまうのかと思うと善し悪しで、気分は複雑になるのである。

 今年最後のグルマンライフを飾るに相応しい良店には違いない。

 

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