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月島ホルモン「在市」-飛騨牛で京風ホルモンを食す

ごちゃまぜ焼き

ごちゃまぜ焼き

 小生のホルモン好きは既に何度となく述べてきた。ホルモンといえば、昔は豚の腸や肝を串に刺して焼き鳥風に焼いたもつ焼きが主流であり、それが赤ちょうちんの焼き鳥の定番であった。
 今は、ホルモンといえば、焼肉屋の牛の大腸、小腸、胃袋、横隔膜などが一般的になってきた。
小生は赤ちょうちんの焼きトンも好きだが、現在は、昔のように丁寧な下ごしらえとタレに凝ったいい店がなかなか見つからない。(吉田類の酒場放浪記では良く登場するのに、なんでか?)
 昔は新宿西口の大ガード裏の小便横丁(現おもいで横丁)や渋谷の京王線ガードの近くには旨いモツ焼きの店が沢山あった。シロ数本でカストリ焼酎を一杯やるのが、田舎からポットでの学生にとって、大人になったような精一杯の背伸びであったような気がする。その後社会人になって、未だ飲酒運転が犯罪では無かった頃は横浜反町や国立駅裏の焼きとり(モツ)屋にも良く遠征したりしたものだった。又手術が深夜に及ぶときは、信濃町から深沢までお気に入りの店にテイクアウトで買いに行ったりもした。

 渋谷の「ゆうじ」を始め、いくつかのホルモンの名店を覚えて以来、小生は、ここ数十年はホルモンが、焼き肉の代名詞となったが、近年は巷でも牛ホルモンは大人気である。しかし数年前から食品衛生法がうるさくなり、生レバー、ユッケが消えてしまい少々興ざめの人も多いのではないでしょうか。20年ほど前は、四谷荒木町ではレバーに限らず、多くの消化器系、生殖系の臓器を生でスライスして出す店があり、しばしば通ったものであったが、今思えばぞっとするような話ではあります。

店内風景

店内風景

 さて、今回紹介するのは、月島にあるホルモン屋「在市(ざいち)」です。
 月島といえば下町のB級グルメ(もんじゃ)のメッカのような印象がありますが、月島は行ってみると、街並みは清潔でスッキリしており、建物も小奇麗なものが多く、意外な感じを受けます。(該当区民の皆さんには失礼しました。)
 在市も焼肉屋としては、モダンな清潔感のあるインテリアのお店で、赤坂あたりで名を成しているような焼き肉店よりかなり洗練されている。
 オーナーが岐阜県の出身だそうで、その縁で飛騨牛の上ものが手に入るので飛騨牛専門店を名乗っているようです。飛騨牛といえば、元は松阪牛の名牛一頭を仕入れたことから始まり、努力の甲斐あって昨今は松阪を超える程のブランド化に成功したものであります。

 小生は昨年の後半に3度立て続けに訪問しており、行けば目一杯食べて来るので、おおよそのメニューとシステム、店の雰囲気は理解したつもりです。
 お店はテーブル席が大小5つくらいとカウンター席があります。その他にも2階もあるようです。カウンターには座ったことが無いので分かりませんが、テーブル席はかなり強力な吸煙装置が付いており煙が目に沁みるようなことはありません。それに、火力は炭火ですが、焼き網が独特で、まるでジンギスカン鍋のような形(そのもの?あるいはプルコギ鍋?)をしており、焼いた肉から出る油が溝を伝わって鍋の淵に集まるので、炭に落ちて燃えて煙が出るようなことはありません。従って団扇や氷で煙処理をする必要が無く、良いアイディアだと感心しました。

牛の部位イラスト

牛の部位イラスト

 メニューは豊富で、牛の殆どの部位が食べられますが、肉の部位の名称が立派なイラストになって壁掛けになっていて、あらためて見ると勉強になります。
 基本はお店の薦めに従って食べればハズレはありませんが、店員の知識量に差があり、また、ここでは肉はお店の人が焼いてくれますが、それも技術力に差があり過ぎるのが当店の最大の課題ではあります。これは鮨屋の握り、あるいは花屋のアレンジメントと同じで、誰に当るかで差が出てしまうので、初めてでも遠慮することなく店長にお願いするのが賢明かと思います。何でもそうですが、肉であっても、その物語性を説明してくれると価値、旨さも増すものです。

 ある時、面倒だと思って、始めの注文時に、まずグラスビール、次は赤ワインをボトルでと同時に頼んだら、最初にワインをもってこられたことがあった。唖然として、注意すると、「なぜイケナイカ?」という顔をする位のレベルで、せっかく良い店なのだから、バイトといえども従業員教育にもう少し気を遣った方が良いのではないか、と改めて思ったものだ。

 この感覚は、食べ方の順番にこだわらない (一部の) 群馬県民の作法と同じではないかと呆れた。

下町といえば、所作と建て前、粋を売りにしているのではなかったの?と。

大判ロースの薄切り

大判ロースの薄切り

卵をつけて食べる

卵をつけて食べる

 さて、肝心の肉であるが、まず飛騨牛のロースの薄切り大判を食べるのがベストの選択であろうと思う。一皿にA5ランクロース肉80グラム見当が二枚付いて2000円しないのはかなりのお値打ち感があるし、これをレア加減で焼いて溶き卵につけて食べると、高級なすき焼き屋で仲居さんが焼いてくれて一口目を食べるのと同じ感覚になる。肉が大きいだけにもっと感動が大きいかもしれない。一緒に行った連れの女子大生が、すかさず、「白いご飯を下さい」と注文した時は、してやったりと、こちらも嬉しくなったものだ。但し、これは最初に食べないと感動が薄い。試しに最後にアンコールしたことがあるが、やはりホルモンの後ではこうはいかなかった。

ごちゃまぜ焼き、焼き上がり

ごちゃまぜ焼き、焼き上がり

ホルモン九条ネギ焼

ホルモン九条ネギ焼

 この店のレベルが確認出来たら、次は本番のホルモンだ。タンはやや厚切りで食べごたえがあるが、それほど個性的ではない。お奨めは「ホルモンごちゃまぜ焼き」だ。シマチョウ、マルチョウ、テッチャン、ミノ、ハチノス、ハラミなどをごちゃまぜにして自慢の味噌だれに付け込んであるモノを焼いてくれる。モノによって焼き時間に差があるので、注意深く焼き分けて、焼き上がると端に置いて薦めてくれる。これはまさしく京都で食べるホルモンそのものである。京都は全般に繊細な料理の仕方を得意とするが、一方でホルモンの食べ方は大雑把で豪快である。京風では付け込む濃厚なタレが店の勝負らしいが、塩コショウで味付けし九条ネギをたっぷり乗せたホルモンネギ焼もまた美味い。後はイチボ、ハラミ、トモサンカク、ザブトンなど皆美味いが、一皿のボリュームもそこそこあるので一度の訪問では到底全部は食べきれない。従って、遠方にも関わらず、つい何度も通うことになるのである。メニューにある飛騨牛の土鍋ご飯も美味そうだが、残念ながらそこまで到達したことはない。
 食後のハーブティも本格的だし、デザートのプリンもアイスクリームも良かった。

ハーブティ

ハーブティ

老人には美少女が良く似合うのだよ

老人には美少女が良く似合うのだよ

 焼肉屋としてもかなり上級な店といえよう。元祖、青山の第一神宮のような高級店志向ではなく、かといって昔からありがちな乱雑な構えでもなく、また叙々苑のような一定の規格にはまったチェーン店感も無く、個性的で客とも一体感があり、コスパも良い。運よく「良い係りさん」に当たれば、かなり満足度の高いお店である。

 オーナーが時々巡回しては、大声で店員に檄を飛ばしていて、こっちが驚いてビビることがあるが、その教育熱心さをホールのアルバイト店員にも及ぼして欲しいと思うのは小生だけではあるまい。

 ともあれ、久々のホルモン、焼き肉店のヒットであることは間違いない。

 

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