私の食の情報源である「東京最高のレストラン」2015年版、週刊文春の「切り捨て御免!食味探検隊」、尊敬するフードジャーナリスト犬養裕美子レストランガイドの3本立てで激賞されていて、行かない手はないと思いつつも同伴相手に恵まれず放置していた、荒木町の中華料理店『の弥七』にようやく行った。何の因果かOIN高校の同窓会を荒木町でやることになり、なんとその一人が手練手管にものを言わせ、直前にも拘わらず、『の弥七』の予約をとってきた。
私の居た大学病院の形成外科は、最近は女医の入局が多いのでありますが、昔は山岳信仰のように女人の入山は禁止であったにも関わらず、たまにはぽつぽつとは居り、その多くは付属の女子高出身者かOIN高校の出身者であった。
私の知るOIN出身者の共通点は皆酒豪であるコトである。男勝りというより、まるでウワバミ親父のような酒の飲みっぷりなのである。塩をなめてでも飲む、倒れてでも飲む勢いなのである。もちろん、才色兼備を誇るOIN出身者の多くは決して彼女達と同類だとは思いませんし、思いたくもありませんが。
今年の専修医の一人がやはりOIN出身であり、卒後10年位の某S会病院の形成外科部長をしているM.W嬢と膝を詰めて一献飲みたいという強い要望があり、そこで優しい先輩を自称する私が一肌脱いで同窓会を設定したのである。私はもちろんOIN出身であるはずもないのにかかわらずです。
M.W嬢は国立C大の学生時代から千葉の某FM放送局のパーソナリティをしており、未だにその電波エリアの男性諸氏(すでに中年男になってるはずだが)のアイドルであり続けながら、今は荒木町を夜な夜な徘徊しているうちに数多ある荒木町の料理屋、飲み屋のオヤジさんたちのマドンナにもなっている関係で、この界隈の予約の取れないお店でもいとも簡単に席が取れるのである。
さて『の弥七』であるが、この妙なネーミングは実家の高知の中華料理屋が「風車」というので、その続きの『の弥七』としたとの事であるが、ちなみに店員に尋ねた時には、「肩車の弥七」といわれた時は戸惑ったな。店員の勉強不足が目立つ店ではあったな。
場所は、荒木町の杉大門通りと外苑東通りの交差する辺りで、あのやたら元気な岩井食堂の先である。
料理は中華というより、基本は和食をイメージさせる食材を和食器を使って盛り付け、調味料など味付けは、中華風からエスニック風まで独特の個性を出しているものである。
まずは、そのうまさには驚く。私の評価は店主、山本真也氏は天才であるというものであった。ヌーベルシノワで鳴らした千歳烏山の広味坊から幡ヶ谷の美虎(みゆう)に移った五十嵐美幸氏とは、一味もふた味も違う。五十嵐氏の料理も登場時は感嘆と称賛で歓迎されたが、いわば想定可能な範囲での革新であり、山本氏の料理は想定外のものと言えよう。想定外の食材を組み合わせて、想定外の調味料で見事なハーモニーを作り出す感性は、やはり天分のものとしか言えないだろうと思う。研鑚とか頭の中での計算では作り出せないバランス感覚は、まさに食材の波動と料理人の波動が共振共鳴したとしか説明のつかないものであるとさえ思う。
訪れた当日は春節、旧正月であったことも計算されてか、黒マメの揚げたものとか、カラスミを閉じ込めた焼き餅が出た。三段重の前菜は得意な定番と八寸のような感覚の重であった。最後は土鍋炊きのご飯と耐熱容器に入った麻婆豆腐がお約束のようであるが、間に出るミントティもCICADAに負けないうまさであった。
僕はプロではないから、微妙な味付けの表現は出来ないが、今までに味わったことのないものがこれでもかと出され感動の連鎖であった。
料理は6500円、9000円が基本で、前日予約が必要な12000円のコースがあるらしいが、僕たちは初めてでもあり6500円の料理を食べ、質、量ともに十分に満足できるものであったが、やはり9000円のコースにすれば良かったと後悔した。これ以上だと一体何が出るのだろうと、思わず期待させたのだ。
会計をしながら、早く裏を返さねば、と思いつつ、さて次の相手は誰にするかと不埒にもふっと思ったのである。OIN嬢たちよ、許されよ。
惜しむらくは、店のインテリアのチープさである。味は特級でも、インテリアが情けなくては気分が盛り上がらず、デートには使えないからなあ。OIN嬢たちよ、安心されよ。