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ダイニズテーブルースノッブさと斬新さが少しも変わっていないヌーベルシノワの星

雑誌GQ10月号を読んでいたら、「GQ TASTE 話題のグルメ」として中国料理最前線という特集が組まれていたので興味深く読んだ。『の弥七』でも出て来るかと思ったが、なんと「ダイニズテーブル」が出ていた。
もう30年以上前になるが、中華をフレンチスタイルで食べさせるお洒落な店として一世を風靡したが、もう過去のお店かと思っていたから驚いたのである。
青山骨董道りから、根津美術館の方に入る交差点の直ぐ右側の所にあるから、時々その前は通るので、未だお店があることは知っていたが、かつてのオーラは感じられず、良く続いているなあ位に思っていたのである。

今ではさほど珍しくもないが、中華料理をフレンチレストラン以上にシックなインテリアで、趣味の良い洋食器で一銘づつサービスする斬新なスタイルでヌーベルシノワを東京に初めて登場させたのは岡田大貮という洒落者だった。1980年代初頭の頃のことで、東京でも、未だフレンチといえばホテルのレストランを思い浮かべるくらいの、東京の食文化が花開く夜明け前の事であるから、それがいかに時代を先取りしたものであったかは今になって良く分かるのである。

店内

岡田氏は、その他にも原宿のマンボウズ、ブラッスリーDなどレストランやクラブを経営していたが、中でも原宿の先、千駄ヶ谷小学校の近くにあった「クラブD」は当時の最先端を気取る人達が集まるメッカの様であり、小生のような者は一度行ったらもう怖気づいてしまい二度目は行けなくなるようなディスコであった。まさに今でいうヴィップ御用達クラブであった。

骨董通りも、その頃からお洒落な家具屋、雑貨屋やブティック、レストランがどんどん増え、様変わりして行った。当時は根津美術館の入り口は骨董通りにあったような気がする。
インテリアのIDEEの旗艦店が出来、やがてIDEE Pacificも出来、日本にアジア家具のブームが来て、やがて終わり、いつの間にかIDEEも居なくなった。B&BもPapasも居なくなった。
今この辺りで残っているのは、JAZZのBLUE NOTEとJIL SANDERと岡本太郎記念館とダイニズテーブルくらいではないかと思う。最も岡本太郎記念館は彼が亡くなってからであるから当時はまだ無かったかもしれないが。

東京はバブルが正に始まる直前で、すべてイケイケの風潮で、食事もどんどん高くなっていったから、ダイニズテーブルも相当高かったような気がする。

今回雑誌で紹介されていた料理に興味がわいて、久々に行ってみようかとサイトで確かめたら、ずいぶん安くなっているのに驚いた。きっとお店もチープになっているのだろうと予想して訪ねたのだが、入り口の雰囲気から接遇から、昔と変わらないものであった。
インテリアも変わらず、サービスも変わらなかったが、安くなった分、客層もカジュアルになっており、軽装の男性の二人連れが大声でしゃべるのには閉口した。

興味を持った料理は大量の唐辛子を炒って食材に風味付けする料理で、前に『の弥七』で食べて感心したからである。

その調理が入ったコース料理を食べて来たのでご紹介しよう。

前菜

前菜

イタリア産の栗と生ハムの春巻き

イタリア産の栗と生ハムの春巻き

マコモ茸入り里芋の団子のコンソメスープ 干し貝柱の香り

マコモ茸入り里芋の団子のコンソメスープ
干し貝柱の香り

金のかに玉

金のかに玉

大エビの黒酢クリーム炒め ポルチーニ茸風味のマッシュポテトと共に

大エビの黒酢クリーム炒め
ポルチーニ茸風味のマッシュポテトと共に

カシューナッツをまとった牛フィレ肉のロースト朝辣椒の香り

カシューナッツをまとった
牛フィレ肉のロースト朝辣椒の香り

角煮と青梗菜の炒飯

角煮と青梗菜の炒飯

デザート 梨のコンポート

デザート 梨のコンポート

タピオカ入りマンゴのスープ

タピオカ入りマンゴのスープ

以上がプレミアムプリフィックスコース8000円である。

今のお店のコンセプトはフレンチ料理人が考えた中華料理だそうである。
確かに春巻きは生ハムと栗という斬新な取り合わせであるし、「金のかに玉」はズワイガニの脚の上にスフレかと思わせるようなふわふわのオムレツが乗せてあるものだったし、海老の黒酢クリーム炒めの附け合わせのマッシュポテトはフレッシュポルチーニが刻んで入っており、その芳香は十分に妖しいものであった。
目的の唐辛子炒めの牛フィレはナッツがパン粉のように絡み、ロゼにローストされており、それだけでも十分に美味しそうなのだが、それに大量の唐辛子を炒って、かぶせて風味を付けて中華のローストビーフになっていた。
唐辛子は一緒にローストしたのかどうか、詳細は不明である。

最近は和食でもトリュフを使ったりするが、唐辛子の香りで来るところは心憎い。
もし『の弥七』を知らなかったら、もっと感動しただろう。

食材の取り合わせは、「の弥七」に劣らず斬新だが、味付けは「の弥七」程、中華の伝統を超え過ぎてはいない。
ワインも値ごろのものが揃えてあり、店の見栄のような高級ワインがリストにないのも潔い。

全体にはかつての高級なお洒落な雰囲気は保っているが、客層はかなりカジュアル化して気どりが無くなっており、プライスダウンもあって使い勝っては良くなったような気がする。
しかし当時を知る世代には、バブル期のような‘すましこんだ滑稽さ‘も今は懐かしい。
実に、世の中は「虚」で満ち満ちていた。

ダイニズテーブルをこれからどのように使うかは、もう何度か足を運ばないと分からないが、良いテーブルに当ればCPは相当良いと思う。

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