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昨今の東京レストラン事情-南青山のL`AS&CORKについて

雑誌GOETHEが年に一回、現代の名だたる3人の食通がこの一年間に開拓し、太鼓判を押した店をジャンルを問わず推薦する「悶絶レストラン」特集を組む。
原則的に各人にとっては新規に開拓した店であるから、既に巷間、誰しもが認める有名店は含まれず、情報が常に新鮮であることから、小生に限らず、この企画のフアンも多いのではないかと思われる。
3人とは、「売れる本が良い本である」を社是にする幻冬舎社長のT.K氏、作詞家でおニャン子からAKBまでJKグループプロジューサーのK.A.氏、かつてはテレビ番組「料理の鉄人」を、今は「東京会議」を制作し、RED u35では新人料理人を発掘し、また老舗料亭からフレンチレストランまでをプロジュースするK.K.氏の3名である。全員とも、もう名を成してから既に長いが、その勢いは衰えを知らず、今が盛りの方ばかりであるから、当然あらゆる遊びには貪欲で精通し、食の探索も旺盛である。
3人の会話を読んでいると、端々の自慢話は、年寄りには少々食傷気味にもなるが、選んだ店は、さすがにというか、老いてもそそられる店ばかりである。それに互いが、自分の沽券に掛けて推薦しているから、大きな外れのあろうはずがないと思うのである。
が、しかし、中には行きたいと思っても、紹介制とあって、有名人と縁のない、名もない一般人では行けないような店がいくつも出てくる。無論彼らに行けない店など、元より存在しないのだから、読者がどう思うかは関係のない話なのである。
「有名店ではないとは言え、これだけの食材を使って、ここまで丁寧な仕事をし、この店構え、サービスでは安すぎると思う」と言って紹介しているのだが、いざお店の案内を見ると料理3万~では、バブルもはじけて、平成も30年になろうとする、慢性デフレの昨今の一般人の感覚とは程遠いのである。要するにゲーテイスト2017は、結果として、美味かろう、高かろうが基準になってしまっているキライがあるのである。

バブル崩壊以降、高級店の顧客単価は半分以下になったが、またぞろ超高級店が復活し始めた気配がある。旅館も、「星のリゾート」に続いて「ひらまつ&リゾーツ」が超高級オーベルジュの展開を始めて、全国的に再び高級志向の波がみられるようである。
それが時代をリードするものになるかどうかは、すでに縮小期と言われる老年期の小生にはニュートラルな判断は出来ないので、しばらく様子を見ないと何とも言えないだろうと言うしかないのである。

現在は、若い人の内向き志向というか、堅実な経済感覚で、一般に外食の顧客単価は下がっており、それにあわせて、極めてリーズナブルなコスパに優れたお店が出てきている。
料理人は才能豊かで、かつ勉強家で、決して料理の質には妥協せず、目一杯の料理を提供するが、料金はいろいろ工夫をして、ギリギリまで下げている、そういう心意気というかマーケッティングに長けたお店が増えてきた。

その中の一つがL`AS & CORKである。
既にL`ASのランチとデリについては書いたが(グルマンライフ2016.11.2,2016.11.9)、その後CORKもL`ASもディナーに行って、感心したのでまた取り上げようと思う。
L`ASとCORKは、今最も勢いのある街、南青山にあり、二つは系列店で、というかお店は背中合わせで、厨房を共有しているように建っている。通りに面したのがCORKで、奥に隠れているのがL`ASである。L`ASはテーブル席のシンプルなデザインのフレンチレストランで、CORKはカウンター席のみのワインバーである。食事は別のメニューであるが共に、一種類のコースのみである。CORKはワインがペアで付いている。
L`ASの12月のメニューをご紹介します。

1)ミモレットチーズの一口コロッケ

2)フォアグラのクリスピーサンド‘ストロベリー味

3)蕪のサラダ、レモンと白ワインのジュレのソース

4)イタリアのスープ[タルディ―ボ、うずら豆、ビーツ]

5)白子とキャベツのパイ包み焼き

6)エゾシカのロースト、タルディーボのソテー、鹿のラグーソース

7)ミニトマトのコンポート

8)焼き芋のモンブラン

CORKのワインと料理のマリア―ジュは

日本では、おそらく食べ手の文化が成熟していないからか、あるいは伝統的日本料理の文化からか、余りアラカルトメニューで食べる習慣が発達していないようだ。一流店に行けばいくほど、あれが食いたい、これも食いたいとは中々言わないで(言えないで)、店が用意したもの、あるいは店が薦めるものに容易に誘導されるのである。
この習慣は、店側には全く好都合で経営上は極めて良い環境になっている。コース料理一本であれば、結婚式披露宴のように材料に無駄が出ず、利益率が最も良いのだ。又貸切制というのもそうだ。料理、人数が読めて、無駄が無く利益率が高いのだ。
日本ではレストランウエディングというアイディアで大儲けしているレストランが幾つもあるらしい。
早く有名になり儲かれば良いという昨今の仏・伊料理界では贔屓、常連などという存在はあてにしない。客を大事にし、客を育てる気概が希薄なのだ。

フランス、イタリアでは、店のメニューからアラカルトを削ることはないし、原則として貸切はやらないのが普通である。今日出るかどうか分からないようなお皿の高級食材でも常に用意して、アラカルトに応えるようにしているのが、客に対する店の矜持でもあるのだ。(もっとも最近のヨーロッパ事情は知らないが、ムニュ・デギュスタシオンなんてのが主流になっているなんてことがある?)

日本はこのところ、コース料理でも、プリフィクス形式が多くなった。コース料理仕立てにして、前菜、主菜、デザートも、いくつかの種類の中から選択出来る好都合な方法だが、これなら客の側の選択権もある程度満足させられるし、用意する品数も制限されるから、店側も食材の無駄が省けて、料理人も調理法を習得し易いから、皆よいというわけだ。

LAS&KORKでは、きっちりワンメニュー設定で、時間は二部制で客を一晩で2回転させ、キャンセルにはペナルティを課して空席を減らす、テーブルクロスなどの経費を省く、カトラリー交換などの手間を無くして(同じものを使い続けるというのではなく、自分でとり出して使う)人件費を抑えるなどの工夫をして、料金設定を低くしている。
かといって料理に手抜きはなく、むしろカンテサンスに負けず革新的だと言ってよい。

写真で示したL`ASのディナーコースが5000円で、内容は3週間でそっくり変わるという。皿ごとに、見合ったワインが付くワインペアリング(5杯)も5000円と良心的である。CORKもほぼ同様の値段設定である。

しかし、すべてが画一的で、店側が主導権を持って能率的に食事が流れるように運んでいくのが気になるという向きには、ここは向かない。
極端に言えば、いろいろ言わずに店側の言うように従って食べて、時間が来れば追い出される、と取れなくもない。まるで、こちらが食べさせて頂いている気分になるという人がいるかもしれない。

いえ、これは決してホスピタリティが悪いという意味ではありません、システムの話です。従業員は皆親切、丁寧で気遣いが出来ている。

食事とは食べることだけではないと、食事に伴う時間の流れの豊かさに重きを置く人には、ここの合理性は食事の快楽性をそぐものと思え、楽しくないであろうと思う。
しかしTPOを考えて行けば、これはこれで大いに価値のある新しいレストランのスタイルであろうと思う。(かといって誰にでも真似ができるとは思いませんが)

それに何と言っても、「料理にはこだわって、客を満足させる」、ことは守られている。
もっとも、これで料理が平凡なら、ただのお徳なレストランになってしまうだろうが。

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