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「料理マスターズ」について

 

農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」というものをご存じだろうか。
その制度の趣旨に賛成し、支援する半民営団体である「料理マスターズクラブ」が『料理マスターズガイド』なる本を年初に出版した。先日そのクラブで推薦人をしている友人からその本を貰い、興味深かったので紹介しようと思う。
料理マスターズの設立趣旨は、日本の第一次産業の活性化に貢献している料理人を国が表彰することで、日本の食を支えるシステムを強化し、食と消費を繋いで地方の活性化を目標とする。同時に第一次産業だけではなく、観光産業をはじめとした関連産業とも連動して、日本のソフトパワーの発揮にも有益な効果を及ぼすことを期待する、ものとなっている。(ガイドブックの巻頭より)

料理人を国家が顕彰するものとしてはフランスのMOF(国家最優秀職人賞)が有名であり、ポールボキューズ、ジョエルロブションら多数の世界的料理人が受賞している。
しかし、実はMOFは料理以外にも宝飾、刺繍など工芸品、ガーデニング等180種類もの生活に密着した分野の職人が対象になっている。それをArt de Vivre生活芸術と呼び、日々の生活の営みの中にも芸術性を認めようとする、いかにもフランスのお国柄を物語るものとなっている。

日本では、織物、陶磁器、漆器、木工品などの伝統工芸の分野では、優れた職人に経産省があたえる「伝統工芸士」という国家資格があるが、料理の世界は対象になっていない。
「現代の名工」というものもあるが、これは厚労省が設けた卓越した技能者表彰制度で、金属加工・組み立てなどの機械工、洋服の仕立て職人、大工など日本の伝統工芸ではない分野の技術者が対象になっているようだが、こちらは料理人も対象になり中華「四川飯店」の陳建民、日本料理「みちば」の道場六三郎、「菊の井」の村田吉弘、鮨「次郎」の小野二郎、フレンチ「オテル・ド・ミクニ」の三国清三、パティシエ「オーボンビュータン」の河田勝彦などが貰っている。
さらに卓越した技術を持ち、その分野に大きく貢献した人を、文科省が顕彰する無形重要文化財保持者(人間国宝)があるが、料理人は対象にならないのか今までに受賞者はいないようである。

料理人マスターの制度は、前期趣旨に5年以上貢献した料理人を対象にブロンズ賞を、引き続きさらに5年の功績が認められた人にシルバー賞、また更に5年位以上の功績があるとゴールド賞が与えられる仕組みになっている。2010年の第1回から2015年代6回までにブロンズ賞は44名が受賞し、昨年初めてシルバー賞4名が発表された。受賞者は全国にほぼ均等に分散されており、ミシュランのように関東、関西に限られていないところは地方の第一次産業振興という趣旨に沿ったものでもあるだろう。

しかし選者の審査委員はいずれも名の知れたいわゆるグルメ関係者ばかりであり、選ばれた料理人も殆どが既に全国的に名を知られた名料理人ばかりである。
従って受賞者は料理店のオーナーシェフであるから、受賞による利益相反は決して小さくはないであろうし、ましてやこれは半ば公的な組織によるものであるから、審査の選考過程のいきさつは、少しは透明性があった方が良いのではないかと思う。少なくとも誰が誰を推薦したか位は明らかにしても良いのではないかと思う。

第1回シルバー賞は、大阪「カハラ」の森義文しと長野の「職人館」の北沢正和氏他3名であった。

職人館は、小生の立科の山荘に近いこともあり、ここでも既に紹介(グルマンライフ2012.11.22)しているが、北沢氏は長野県佐久市望月の春日温泉の里山で、地産地消を永年実行し、地元の農業振興に貢献し、地場の野菜を全国区に育て上げた。元役場の職員の脱サラ組であるが、料理はどこで習ったかは知らぬが、多くのグルメ本でも紹介される腕前であるし、特に蕎麦は秀逸である。

カハラの森氏は、雑誌「四季の味」初期の執筆の常連で、編集長の森須滋郎に可愛がれ40年以上も前から全国で名が知られ、予約の取れないことで有名であったが、実際に会ってみると気さくではあるが、漆器も手作りするような器用な趣味人で、独特の審美眼の持ち主であった。当時から随分落ち着いた風格があったが、現在もまだ現役のところを見ると、随分若い時分から名をなしていたことになる。

料理マスターガイドは、お店ではなく料理人が主役で、料理人を紹介するものである。同時に料理人と付き合いのある農家や漁師、食品加工業者や仲買人が一緒に紹介されている。そして彼の推薦する料理店が3軒ほど紹介されており、読み物としても退屈することがなく一気に読んでしまったほどである。

さて今後の展開であるが、昨年は初めてシルバー賞を5名が受賞した。
森、北澤両氏は第1回ブロンズ賞を受賞しているが他の3名が受賞しているかどうかは定かではないが、もしそうであるならば、それは単なる5年という経年による繰り上げなのかどうか選考基準や選考方法が明確化された方が良いのではないかと思う。
まさに現代は、情報公開が求められる時代であり、「忖度」があるのではないかとの誤解を招くのは今後の発展にとって得策ではないと思うからである。

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