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「老いの心理」を考察する②-エリクソンのライフサイクルを考える、その1

人は生きて行く中で、何度となく「生きること」に迷うものです。
そんな時にはライフサイクルの考え方は、迷いからの脱出の参考になることがあると思います。
先に古来からの知恵としてのいくつかのライフサイクル論を見てきました。

 現代では、人間のこころの在り方を研究する科学に発達心理学がありますが、
発達心理学は、基本的に外的な現象を観察して推測してゆくという、客観性を持った科学的な手法に寄っているものです。

 フロイトは内的なアプローチ、成人の記憶にある子供の頃の性的な衝動の現れから深層心理を推定し、精神分析という領域を拓きましたが、それは基本的に客観性に欠け、科学的なアプローチでは無かったので、神経学者であったフロイトは科学性を求めて「口唇期」「肛門期」などと科学性を装った表現をとり、心理の発達を性衝動のみから捉えるという限定的なものになっています。また、それは男性の自我の確立から壮年までの発達段階を見るのが目的であったため、「名誉、権力、名声、女性の愛」が分析の対象になっており、いわば人間の上昇期の発達を見るもので、下降局面に入ってからの人生には意義を見出さなかったと言えるものでした。

 ユングは人生の後半の意義を見出した最初の精神分析医で、心を無意識を含めた全体として捉え、中心に自己という概念を置き、自我の確立過程で邪魔になり無意識下に抑え込んできたものを、人生の後半では意識下に取出して個性の完成をはかる、すなわち自己実現{個性化}を図るのが人の生き方として完成されるべきものであるとし、そうすることで人の人生は芸術ともと呼べるものになるとしました。

 エリクソンはフロイトの説明を受け入れながらもユングの考えも取り入れ、膨大な臨床研究の中からユングより分かり易い説明である、生まれてから老年期までのライフサイクル図説をつくりあげました。
 フロイトが精神の発達を性的衝動の発展として捉えたのに対し、エリクソンは家族の人間関係を重視し、人間とは身体・心理・社会的な存在であるから、それらを十分に包含して発達を捉えるべきであるとして、人生を8期に分け、それぞれの期に乗り超えるべきテーマ、「危機的主題」を立て、それを上手く乗り越えられないと、人生の危機に直面し、順調な人生は送れないとしました。
 エリクソンは人間の生涯にわたる発達を考え、その中で思春期・青年期における心理・社会的危機としての「アイデンディティの形成」という概念を創出し、一気に世界中に広く認められることになりました。

 エリクソンのライフサイクル論は、言い方を変えると、人生には順番に乗り越えるべき課題、テーマが存在し、それらは飛び級することは許されず、順番に克服して行かなければならないものであり、そのテーマが現れる年代順によって人生を8期に分けたともいえます。
 これらのライフサイクル図説を理解し、知識として持っていることは、人生のどこに期に生きていようと、危機を克服して、幸福に生きて行くには有用なことと思われるので、これから順番にみて行こうと思います。
 もっともエリクソンは、その後ライフサイクルの完結として9期の段階を提唱して、死を目前にした85歳以上高齢者の人生の在り方を述べているが、それは老年の心理の締めくくりとして最後に述べようと考えています。 

図1:エリクソンのライフサイクルモデル―佐々木正美より 001

図1:エリクソンのライフサイクルモデル―佐々木正美より 001

図2:エリクソンの個体発達分化の諸領域―鑪幹八郎より 001

図2:エリクソンの個体発達分化の諸領域―鑪幹八郎より 001

 Ⅰ.乳児期(0~2歳)「基本的信頼」の獲得―人を、自分を信じられるか。母に愛されて、心が生まれる時期
 人生の最初の時期で、目安としては0歳から2歳くらいの時期をいいます。従って本人の記憶は無い時期になります。

 この時期は、人の人生を決定づけるという程にもっとも大事な時期で、「基本的信頼」を獲得する時期に当ります
 基本的信頼basic trust とは、人を信じることが出来るようになることで、同時に自分を信じることが出来るようになることを言います。
 自分を信じることが出来るようになると、生きて行く自信が出来、自分の存在に誇りが持てるようになり、自尊心が生まれます。この根本的な意識が持てないと、真っ当に生きて行くことは困難になるので、基本的信頼が持てない状態を精神科医バリントは「基底欠損」と表現しています。 

 私は、自尊心というものは日常の心の働きの領域を超えたものとして捉え、霊性領域の働きと考えています。
 つまり、人は生まれて人に成長する最初の段階で、心の基底となる自尊心を形成することで、宇宙の領域に繋がる霊性の領域をまず先行的に獲得するものと解釈するものです。

 基本的信頼がどのように形成されるかというと、これは一にも二にも母親の無条件の愛情の賜物です。母親の子供に対する「没頭愛」こそが大事で、子供が母親に全幅の信頼を持って依存することができること、「愛着」を持つことが出来ることから基底的信頼は醸成されます。
 その愛着は基本的に母親との間にしか成立しないものであり、無条件の母親の愛情によって形成されるものであります。
 人の成長には母親、あるいは母親に代わる人が必須であるということを意味します。

 精神分析医のマーラーは、子供は生後、自閉期、共生期、分化期、練習期、再接近期、を経て、およそ3年間をかけて、分離個体化を成し遂げるとし、乳児は生物的な生を受けた後に、ここで初めて「心理的な誕生」(サイコロジカルバース)をするとさえ言っています。
 分離個体化し独立した自我を形成するためにも、安全基地としての母親に愛着しなければならないし、そのような依存対象が無いと、分離不安、見捨てられ不安が残り、依存と独立のジレンマから個体化の失敗に陥り、独立した自我ができず、やがて非行、不登校、摂食障害などの、思春期境界例に見るような症状を呈するようになっていくといわれています。
 小児精神科医のエムディは、子供は何か心配に思うことがあると、母親を振り返って見ては確認し、自分を見守っていてくれる人がいると感じられる事が大事で、その中で社会のルール、規範、約束事に順応できる感情が育つと言っています。(ソーシャルリファレンシング、マターナルリファレンシング)また母親は見守ることと同時に、「よくできたね。」と、一緒に喜んであげることで、子供は社会性、共感性も育って行くとしています。

 いずれも、人生の最初期における母親の愛情の大切さを強調してもしすぎることはないとするもので、これらのことは、決して机上の空論ではなく、多くの発達心理学者や小児精神科医、臨床心理研究者達が、長い年月をかけた臨床研究から導き出された研究結果に基ずくものであり、真理として捉えていいと私は思っています。

 要は、おおよそ2歳までの、子供が分離個体化して独立した自我を形成するまでは、無条件に子供には愛情を注ぎ、可愛がり、甘やかせていいのだということです。
 躾けは、次のステージで、自律性の獲得が出来てからでいいのです。

 

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