1ヶ月ほど前に、朝起きたら右目の眼球結膜が真っ赤に充血していた。
勤務先では感染性結膜炎ではないかと疑われ、厄介者扱いである。
感染性なら、まずは左眼もなるだろうが、と言いかけたが、なんせ相手は精神科医だから、無駄と思い黙っていた。
東京に戻って、信頼できる友人の眼科医に診てもらったら、なんとまさかの右下眼瞼の睫毛内反症(逆さ睫毛)であると。
多分老人性?テーピングでなんとか矯正し、しのいでいたが、日によっては痛くて目も開けられない状態で、もはや手術するしかないと覚悟を決めた。
さて、問題は誰にやってもらうかである。
まず、眼科医にするか形成外科医にするか、である。
眼球の疾患ならもちろん眼科医であるが、眼瞼とか眼窩部(眼窩骨など)は形成外科の方が上手いと元形成外科医としては自負しているし、
この分野の多くの論文もほとんどが形成外科医によるものである。
しかし逆さ睫毛は?多分症例数(経験)の多さは、患者が集中する特定の眼科医であろう。
手術で大事なことは知識と経験、それに手術中の即座の判断力、機転のきく応用力、創造力など、いわゆるセンスである。それに器用な方がいい。
眼科医は経験の範囲で判断するのは優れているかもしれない。
経験が多いのだから引き出しの数も多かろう。
しかし経験したことのない事態になったらお手上げになるのではないか。
また解剖学的な洞察も浅いのではないか、と不安が残る。
ましてや私の症状は日によって変化する曲者である。
結論としては、形成外科を選んだ。
次は誰に頼むかである。
古巣の慶応形成外科に声をかけても、好き好んでやろうとするものはいない。(私の慶応時代の行いが悪かったのが裏目に出たか、後輩の躾が悪かったのだろう。)
そこで、今は美容外科の銀座ヴェルテクリニックの院長をしている
福田慶三先生に引き受けてくれるか相談した。
彼は今や、日本の美容外科のカリスマで、千客万来で患者も多く、手術料も高いと聞く。
逆さ睫毛のような割の合わない手術をやってくれるか一抹の不安を持って銀座4丁目に訪ねた。
アルマーニビルの角を曲がって、いつも行列の出来ているチョコレートのピエールマルコニーニの手前のビルにある。
妙齢の美しいご婦人方に並んでコンサルテーションを待つ。
症状を検討し、手術法で合意すると、「では明日16時から全麻でやりましょう。11時から禁飲食ですよ。」と即決である。
この思い切りのよさが彼の真骨頂でもあるのだが。
福田先生との出会いから今日までのお付き合いは長い。出身大学も違い、一回り以上後輩なので珍しい関係であろう。
彼の経歴はヴェリテクリニックのホームページに掲載しているので省くが、
1989年に慶應形成外科教室が日本形成外科学会総会を担当した時、頭蓋顔面外科のシンポジウムに留学先の米国メイヨークリニックから応募してきて知り合ったのが最初であった。
日本の形成外科にも自己主張の強いこんな生意気な若造がいたか、
というのが当時の気持ちであったが、逆に彼は米国でしていた3DCTの
手術シミュレ?ションの仕事を得意げに持ってきたのであろうが、日本でも我々が独自の手法で、もう少し先を行く手術シミュレーションシステムを
発表したので、驚いたのではないかと思う。
それが縁で、帰国後慶應に来たいとの話があり、慶應の医局にも1ヶ月間程いたが、カンファレンスでの発言や、発想は抜きん出た才能を感じさせるものがあり、日本のcraniofacial surgeryの後継者は彼しかいないと思い期待をしていたが、人事はうまく運ばず、その後紆余曲折があり、結局、出身の名古屋大学の教授ともそりが合わず辞めてしまい美容外科に身を転じることになった。
日本の形成外科にとっては大きな損失だったが、一方美容外科にとっては大きな力になったものと思います。
その後、私は彼の下に弟子入りし、美容外科の一から最新先端技術まで余すことなく全てを教えてもらい、自分の手術の完成度を高めることが
出来、大いに感謝したものでした。
美容外科の世界はビジネスに徹した市場経済の世界であり、生き残るには、特徴のない平均的な商品(手術、施術)をいかに安く大量に売って利益を上げるか、あるいは他には出来ない高品質なものを、少数だが高価に売って利益を上げて行くか、に2分されて行くように見えます。
外食チェーン店展開か、グランメゾンのオーナーシェフになるかです。
福田先生のヴェリテクリニックは、紛れもなく後者でしょう。
大手のチェーン店には、およそ外科的な手技に関わったことのない、いわばど素人に近い先生方が、まるでジプシーのように各クリニックを条件次第で渡り歩いているのが現状です。
ま、色んな光を当てて皮膚の若返りをするとか、何かを注入して形を変えるだけなら、別に医者である必要もありませんが。
美容外科医の名簿を見ると、意外なことに地域医療の担い手を育成すると期待されて開設された新設国立医大出身者が多いのに驚きます。防衛大学卒業生が民間企業へ行くようなもので、納税者の気持ちからはしっくり来ないのは私だけでしょうか。
いずれにしても、10年前なら形成外科医が、美容外科医に自分の手術(美容以外の)を頼むなんて考えられないことでした。
まあ、正直言えば、今でも福田先生以外の美容外科の先生にお願いするかどうかはナイーブな問題ではありますが…。
ともあれ、無事手術は終了し、経過は今のところ順調です。
しかし手術の成功は3ヶ月以上経ってみないとわかりません。
術後、組織は変動するからです。
福田先生には、3ヶ月なんて待たずに、先生の好きなフレンチとワインをご馳走させて頂きますので、楽しみにしていて下さい。
もちろん、事情で例え再手術になろうと、予定に変更はありません。
長年の深い友情と恩義に応えてふさわしいお店を探します。
そして、ヴェリテクリニックのスタッフの皆さん、お世話になりました。
ありがとうございました。