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2014年夏休みーその2:信州の鎌倉・別所温泉を行く。

 お盆休みに、2回目の夏休みを取り、「信州の鎌倉」と呼ばれている別所温泉に行ってみた。歴史的には北条氏のゆかりの鎌倉時代建立の神社仏閣が塩田平、別所温泉界隈に点在することから「信州の鎌倉」と例えられるようになったと言う。
 上田市から上田電鉄が走っていて、ちょうど鎌倉の「江ノ電」の山バージョンと言えるようだ。

 別所温泉に行くのは2度目であるが、泊まるのは初めての事である。
 蓼科からは国道152号線を松本方面に進みから平井寺トンネルを越えればすぐである。別所温泉に入る手前に大きな池の中に浮いたように朱色が目立つ生島足島神社があったので寄り道してみた。

生島足島神社

生島足島神社

生島足島神社

生島足島神社

 案内によれば、生島大神は生きとし生けるもの万物に生命力を与える神であり、足島大神は生きとし生けるもの万物を満ちたらしめる神であるとあり、日本国土の守護神であると書いてあった。歴代天皇が、都を定める時には必ず生島来島の二紳を鎮祭するそうで、明治天皇も東京遷都の折にはそうされたとある。
 なんだか元気がもらえそうな気がした。
 そこでお昼ご飯にしようかと、車の中の弁当バッグを探すも見つからず、どうやら蓼科の山荘に置き忘れてきたようであり、いささかショックであった。  
 僕が、朝早起きしてご飯炊いておにぎりを作り、前回の休みに木曾の奈良井宿で買った木曾わっぱの弁当箱に入れ、楽しみにしていたというのにだ。

 ここで、忘れたのは誰のせいかで、少々ディベートがあった。
 「作った本人が責任をもって持って来るべきだ。」と家人は主張して譲らない。自分には非は絶対ないと主張する頑迷さは、悲劇的に生来性のものであり、間違っても、かような性格を醸成したのは、決して私ではありません。この点は私も譲りません。

 早起きして、おにぎり作って、あげく叱られて、これこそ今話題の家事ハラの極致でしょうか。

 別所温泉は四方を山に囲まれ、塩田平と言われる盆地に位置する。その中央を浦野川が流れ上田近くで千曲川に合流する。盆地の一画がさらに低い山で囲まれ、その真ん中に別所温泉はある。その山の向こうが昨年訪ねた青木村である。(CASA=AF2013.05.24)
温泉街の真ん中には、ご多分に漏れず、川が流れていて、この湯川は多分、浦野川に合流するのだろう。その川を挟むようにいくつもの温泉旅館が建っており、川沿いには、愛染桂で有名な北向き観音や共同浴場や上田紬の老舗などが並んでいる。

白秋の歌碑

白秋の歌碑

北向き観音

北向き観音

上田紬のお店

上田紬のお店

 上田紬は、大島、結城紬と並んで日本三大紬の一つで、手織り感やアースカラーの色合いがとても気に入り、家人に薦めるのだが、自分は着物を着ることはもうないからと、また頑迷である。それでは僕がと思ったのだが、残念なことに男物の反物は置いて無かった。仕方ないので、印鑑入れや巾着袋など小物をいくつか買った。

指輪入れ

指輪入れ

印鑑入れ

印鑑入れ

 別所温泉は、信州最古の温泉で、伝説では日本武尊の東征の折に発見されたとも、天武天皇が入湯のために造営させたと日本書紀にあるとも言われている。  
 文学とのゆかりも深く、古くは清少納言が、枕草子のなかで、兵庫の有馬温泉、島根の玉造温泉と並んで3名泉の一つとしてあげているそうであり、近代以降では川端康成、吉川英治らは別所温泉を舞台にした小説を書き、池波正太郎は真田幸村関連の小説を書くために頻繁に、この地を訪れたようである。
 映画では、「男はつらいよ寅次郎純情詩集」や「卓球温泉」、「君のままで」のロケ地にもなっている。

 初めての訪問時は、車で通りがかった程度であったので、「信州の鎌倉」は少し大袈裟ではないかと思ったが、今回ゆっくり来てみると、周辺のお寺、神社はどれも風格のある立派なもので、鎌倉の例えが決して法螺ではないことが分かった。豪壮な茅葺の屋根の社や立派な塔があちこちに、いくつも建立されているところなどは、むしろ鎌倉に引けを取らないと言えるほどである。

 僕は本家の鎌倉では、唯一の茅葺で古色蒼然とした杉本寺が昔から好きであるが、別所温泉の常楽寺の茅の屋根の美しさ、豪壮さには遠く及ばない。それに寺社の敷地がけた違いに広く、アプローチも深い林の石段であったり、途中に大きな蓮池があったりして本殿に至る道も楽しいものであった。

常楽寺

常楽寺

参道の石段

参道の石段

蓮池

蓮池

 また、お盆休みの最中というのに、人影もまばらで、古いお寺と一対一で対峙出来たような贅沢な気分にすらなった。

 今年のお盆は天候には恵まれず、全体に雨模様であったが、この日だけは晴天で、盆地の暑さは相当なものであったが、寺の境内に立てば、桔梗のお花畑を涼風がそよぎ、夏の信州にいる快適さをしみじみ感じさせてくれた。

桔梗が咲いていた

桔梗が咲いていた

 その晩は花屋旅館に泊まった。何でも大正6年創業の戦前の日本建築の粋を凝らした離れ屋形式の建物で、長い渡り廊下が印象的であった。久しく経験したことのない、どこかで見たような昔の家であった。

花屋旅館の廊下

花屋旅館の廊下

お風呂に向かう廊下

お風呂に向かう廊下

離れ部屋をつなぐ廊下

離れ部屋をつなぐ廊下

 お湯は軽く硫黄の匂いのする、暑めのお湯で、大正ロマネスクのステンドグラスのある大理石の大浴場は見ごたえのあるものであった。

大理石風呂

大理石風呂

 食事は、千曲川の鮎を始め、山の幸が中心で比較的質素で淡泊な感じではあったが、長い伝統に育てられた,奇をてらわないしっかりとした味わいのある料理であった。温泉街と山麓の寺巡りで疲れた体に、お風呂疲れも手伝って、その晩は早くからぐっすり眠った。

 翌朝はすっきり目が覚め、朝食を食堂でとり、お土産コーナーでみすず飴とジャムを買い、バレットサービスで玄関に廻された車で帰途についた。

 どうでもいいことだが、事情通によると、花屋旅館は上田のみすず飴の飯島商店の経営だそうである。(どうりで夕食のデザートはみすず飴本舗のゼり―であった。)

 温泉街から蓼科に向かって走ると、いくつものお寺の案内版が目に入るが、その中の一つの前山寺という寺に、無作為に寄ってみた。
 これがまた大正解で、壮大なお寺であった。参道には巨木の欅が並び、大きな本堂は見事な茅葺で、立派な三重塔も聳えていた。
 人にも会わず、信州の山間の里の寺ならではの僥倖を喜んだ。

前山寺山門

前山寺山門

前山寺三重塔

前山寺三重塔

前山寺本堂

前山寺本堂

参道の欅の巨木

参道の欅の巨木

 そして昼前には我が山荘に帰り着き、午睡を楽しんだのである。

 昨年訪ねた青木村と同じ匂いの空気が流れ、信州の田舎の温泉は、群馬の里山の温泉とは、上手く表現できないが、一味もふた味も違うものであった。
 食事やもてなしのサービスは、やはり信州の方が数等上であるというのが、私達の一致した意見であった。
 花屋旅館は前回の扉温泉明神館とは旅館のコンセプトが違うので一概に比較できないが、ほぼ同じ料金設定を考えると、再訪は明神館だろうというのも同意見であった。
 また再来年の大河ドラマが「真田幸村」に決ったそうで、上田、別所温泉もさらに脚光を浴び、混雑するだろうから、今年訪ねたのは幸運であったと話しながら、忘れて行ったおにぎりを食べつつ、去りゆく短い信州の夏を今年も惜しんだのでありました。

前山寺からを臨む塩田平

前山寺からを臨む塩田平

いたる所に地蔵がある。

いたる所に地蔵がある。

 

 

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