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動的平衡

『生物と無生物の間―講談社』という本で有名になった、あの眼と語り口が特徴的な分子生物学者の第2、第3のベストセラーに『動的平衡―1,2』という本があります。

彼の眼についての形成外科医としての見解はまた次にして、今日は形成外科学における動的平衡について話そうと思います。

人間の皮膚は、皮膚に限らずすべての臓器もそうですが、それぞれの臓器のそれぞれの部位は決まった血管から血液を供給されて生きています。

身体全ての皮膚は何らかの血管(多数ではあるが有限の)によって血行を支配されており、1本の血管は固有の皮膚支配領域をもっていますが、隣接する血管の支配領域との境界は、血管の解剖学的構造によるのではなく、血管の内圧の圧平衡によって決まります。

1本の血管が閉塞したり、切断されて血行が途絶すると、周辺の領域を支配する
血管が圧平衡を失い拡張して来て新しい平衡線を作り、途絶した血管の支配領域をカバーする為、結果として本来の血行を途絶された皮膚も血液を受けることが出来、皮膚は死なないで済みます。

つまり皮膚の血行の支配領域は動的平衡によって決定されています。


図で説明すると、「図1」血管a,b,cは各々の皮膚支配領域A、B、Cを境界線(分水嶺ともいえる)で接して持ちますが、血管bが途絶すると、「図2」血管aとcがbの領域に進出し新しい圧平衡線を作りBの皮膚の血行を分割して賄います。
但し、血管a,cの血行が互いに届かず、新しい圧平衡線を作れない時は、その中間の皮膚は壊死することになります。

 

 

この現象を例えて言うならば、戦国時代に群雄割拠した大名達が力のバラランスで国境を接していたようなもので、一国の大名が死ぬと力の均衡(平衡)が崩れ、たちまち四方から攻め込まれ新しい国境線に分割されるようなものです。

古今東西、戦争とはそういうもので、戦のたびに、国境線はまさしく力関係で移動し、動的平衡を保ちます。

もし、いずれの大名にも力が足りず、遠方まで軍隊を送る兵站力がないと、その地は兵糧が無くなり、枯渇してしまいます。

このような時に、前もって補給路、バイパス道路が作ってあれば、より遠方まで素早く兵站を送り支配領域を拡大出来ます。

医学的にはこれを側副路といいます。

側副路は血管や神経にみられ、いざという時の代替路になります。
これが発達していれば、組織壊死や神経障害はより軽度ですみます。

この人体皮膚の血行の形態や動態の関係性の新しい概念の発見は、実は私の学位論文に依るものです。(1980年度慶応義塾大学医学会三四会賞-最優秀学位論文賞)

この事実は、その後、皮弁という形成再建外科におけるもっとも重要な手術法の血行概念を変えることになり、私はこれを基にしてその後30年以上の間、皮弁学の発展に先鋭的に関わることが出来、結果として形成外科医としての糧を得ることが出来ました。

また頭蓋顔面外科の分野でも頭蓋縫合早期癒合症の頭蓋拡大法において、動的平衡の概念からMoD法という手術法を開発(2012年度日本形成外科学会学術奨励賞)しています。

組織の血行供給の区分は動的平衡であり、これは組織の血行による生存と死を血行動態的によく説明しています。

動的平衡の概念は、ミクロからマクロまで、すべての生命現象のダイナミクスの共通の基底をなしていると考えます。

生命現象を、強いては心、精神の存在を、場の量子論と動的平衡の概念で説明し、ナノプラチナコロイドがその現象にいかに関わりうるかについては、次回から述べていこうと思います。

それは、まさしくラプラスの妄想的思考と思われるかも知れませんが、
理論物理学や精神医学とは本来そういうものです。
御期待下さい。

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