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空耳妄言⑧-空耳のように、聞き流して良いが、誰かが囁いた方がいいような話もある

年の瀬で、いろんな報道番組でも、今年の重大ニュース的に一年を振り返った特集を組んでいる。
何と言ってもイスラム国ISを始めとした過激組織によるテロ事件だろう。それと難民問題。国内では安保法制、沖縄辺野古の基地問題が挙がっている。
そこで僕もこの一年の空耳妄言を振り返ってみようと思う。
 全部を検証すれば、結構な量になろうから、ISのテロに絞って感じるところを述べてみようと思う。

 2015年の新年はジャーナリストの後藤健二氏のIS人質事件で始まった。この事態に僕は本欄で政府とマスコミの対応を非難している。2億ドルを要求された政府は「テロには屈しない」を錦の御旗に後藤氏を見捨てた態度に、「まずは命を救え、後はそれからだ」(2015.1.23)として国家とは何かを問うた。政府が本当に後藤健二氏を助ける気があるなら、政府はイスラム学者中田考氏を派遣するべきだと主張した(2015.1.25)。政府は結局傍観しヨルダン政府に丸投げしたため、人質としての価値が亡くなった後藤氏は公開で斬首処刑された。これうけ、2.2には、「国民の命を守ろうとしない国家とは何か?」で、安倍首相が、既に後藤氏が人質状態にあることを知っていながら、中東訪問し、反イスラム的な言動を繰り返したうえ、イスラエル国旗を背に反イスラムの為に2億ドルの財政援助を表明し、後藤氏の危険を煽ったこと、それに加え、救助の為には口先ばかりで何ら方策を尽くさず、実質見殺しにしたことを非難した。

 ジャーナリストに対するこれらの政府の姿勢を、ロクに批判もせず、むしろ肩を持ってジャーナリズムの使命を放棄し権力の走狗と化した日本とマスコミも弾劾した。この安倍政府とマスコミの関係は、現在も何ら変化していない。
 今また、フリージャーナリストの安田某氏がISの人質になっているが、政府も隠しているし、マスコミも極力報道しない。マスコミが全く頼りにならないのは昔も今も同じなのだ。そして今、反政府的な言動の多い報道番組のアンカー二人(古舘と岸井の両氏)が更迭されようとしている

 そしてこのような残虐なテロがなぜ起きるかについては、4.1に「テロは弱者の戦争である」として、圧倒的弱者の戦争では、テロを戦術にするしかないだろし、一方アメリカの無人爆撃機(ドローン)による無差別空爆は正義と言えるのか、とした。

 その後のフランスのシェルリーエブド襲撃事件、パリ同時多発テロ事件を経て、テロは戦争であると各国の認識も一致してきた。
 戦争といっても、今までにない形態の戦争である。民族間の陣取り覇権戦争、宗教戦争、植民地をめぐる宗主国との独立戦争、資本家と労働者間の階級闘争、思想、社会システムの違いによる東西の戦争、富める先進国と貧しい後進国との南北の戦争、等のどれにも該当しない全く新しい形の戦争といえよう。

 現在の歴史的状況を俯瞰的にみれば、資本主義のカウンターカルチャーとして登場した社会共産主義が破綻し、アメリカ1強の時代となり、グローバリズムの名のもとに、世界がアメリカ式正義、秩序一色に染められようとしている。そこでアメリカの正義が依拠するものは民主主義であるが、多数を良しとする民主主義はポピュリズムに流れ、その制度の限界が露呈して来ているし、資本と国家が一体化して、資本の制御装置が無くなった現在では、中産階級は没落して富めるものと貧しいものの格差が開くばかりで、将来に全く展望の開けない貧困層が世界各国に出現してきた。それらが社会の安定に問題であることはどの国の指導者も意識はしているが、解決方法が見い出せないでいる。
 富の再分配の方法がわからないまま、格差は拡がり続けている。

 まさに混沌カオスの時代である。
そのような土壌の中に、独善的で非人間的だけど暴力的に世界の大国を震撼とさせる力のあるISのような組織が出てくると、シンパシーを感じる若者たちが世界中で呼応することになる。世界中の国家が社会が、同時に、外敵ではなく、我が身中の敵と戦うことになったのである。今世界はヒステリックにISを叩き潰そうとしているが、テロの司令塔が、イラク、アフガニスタン、シリアと来たように、これからイラン、ヨルダン、、、フランスと世界と、いずれ世界中を駆け巡り止まることはないだろう。

 この争いは、いわば「格差間戦争」ともいえるかもしれないが、このテロという陰惨な戦争の果てに、どちらの側もヴィジョンとして描くものが見えないところが人類のかつてない悲劇である。

 しばらくの間は世界はエントロピーの法則に従って、ますます混迷、混沌を深めていくだろう。そして生物科学や精神心理学が明らかにしてきたように、どうしようもないストレス下ではすべてが一旦退行して新しい秩序を模索するのではないかと思う。

 時代は一時的に無秩序な混迷の下降局面に入るような気がしてならない。
私達は、大変な時代に遭遇してしまったのである。

 

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