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噂のイタリアン、銀座『リストランテ エッフェ』小手調べ

10数年前の中目黒の知る人ぞ知る「フォリオリーナ デッラポルタ フォルトゥ―ナ」といえば、一日一組限定でこだわりと気難しさで有名な小林幸司シェフの高級隠れ家イアリアンとして数々のグルメ本で取り上げられ、一種羨望のイタリアンであった。
シェフの気難しそうな強面な風貌と一対一ではと、少々気後れしたのと、予約が極めて取り難かったこともあって、結局行かずじまいでいたのだが、その後余り噂を聞かなくなったと思っていたら、5,6年前には軽井沢に移転していたらしい。
そして一昨年に銀座に「リストランテ エッフェ」として戻ってきたのだが、その経緯を、詳細は忘れたがテレビのドキュメント番組で取り上げられ、それをたまたま見てことの次第を知ったのである。
その記憶があって、7月の某休日に、何処か昼ご飯でも食べに行こうかと思い立った時に、「エッフェ」のことを思い出し、行ってみようと思った。
休日のランチとあって、あいにく満席であったが、カウンター席ならと言うので、偵察のつもりで行ってみることにした。

ネットによれば、基本はアラカルトで、それもアンティパストを中心に20数種の料理を出すとのことであったが、予約時に、カウンター席は決まったコースメニュが一コースと言われので、ちょっと躊躇われたが、面倒がなくてそれもいいかと思った。
ハウスワインと同じで、店が決めたものなら、店の矜持から、それなりの料理を出すだろうと考えたからである。

お店は銀座2丁目の銀座通りから2本西銀座寄り、ブティックや飲食店がゴチャゴチャという感じで入っている余り洗練されているとは言えない雰囲気の商業ビルの8階にあった。
エッフェも特別な門構えも無く、ハッキリしたドアさえもあったかどうかという位の印象で、先入観からすると意外な程カジュアルな店構えであった。
カウンター席は厨房の裏手で、前はガラスで仕切られ、後ろは壁という余り快適とは言えないスペースになっていた。何となくスタッフの賄い用かと思わせたと言っては言い過ぎかもしれないが、妙な設計だと感じた。

料理はメニュにあるとおりであったが、全体の印象は、さすがに、、、とか強く感動したというものではなかったが、やはり他とは違う何かがあった。

1)パンはイタリアのソウルフードのピアディーナとカラサウ

地方の豊かではない普通の家庭で焼くというソウルフードの素朴なパンが2種類が直ぐに出された。小生には知らない素朴な味わいであった。


2)一番目のアンティパストは「タコとひよこ豆のサラダ」

蛸のぶつ切りをオリーブオイルで炒め揚げしたものをひよこ豆とバジル風味で和えたもの。
蛸に歯ごたえがあり味わい深く、なんだか瀬戸内海の蛸料理としても名物になりそうな感じがした。


3)二番目のアンティパストは、「ホロホロ鳥の胸肉とペペロナータのマリネ」

ペペロナータはパプリカを焼いて皮をむいてオリーブオイルでマリネしてアンチョビを散らす料理。
我が家の夏のパーティ料理の定番でもあったので懐かしくもあったが、実はこれは簡単で美味く見場も良いのでお勧めものだが、パプリカの皮を剥くには網で真っ黒になるまで焼くのがコツである。トマトの湯剥きの感覚では駄目で、何かに書いてあった電子レンジではうまく剥けないのである。
ホロホロ鳥は、小生の経験知では、鶏程は旨味が強くないし、それも胸肉ではさらパサパサかと思いきや、しっとりとしていて、かつて味わった事のないような滋味深い味であり、ホロホロ鳥の認識が変わった一皿であった。


4)スープは「赤パプリカとバジリコの冷製スープ」

夏の太陽がスープに溶け込んだかのようなイタリアを感じさせるスープで、チコリが薬味のように乗っていて、混ぜると歯触りとなっていい感じであった。


5)パスタは「アグー豚のラグーのタリアッテレ、丁子風味」

沖縄島豚のミートソースで、グローブ風味の男性的な野趣溢れる味になっていた。
タリアテッレはかなり硬めで小麦粉の味が残る、まとわりつくようなモチモチ感の強い仕上げになっていて、今までに食べたことのない食感のパスタであった。
この感覚は病みつきになるかもしれないと思った。


6)主菜は「仔牛のスペッツァティーノ」

仔牛を角切りにした煮込み料理。仔牛の乳臭さはなく、不思議なほど柔らかい仕上げ。
付け合せはカラサウのミルフィーユ仕立て。


7)デザートは、「マチェドニア」

パションフルーツのフルーツポンチであった。


イタリア料理、ましてやその郷土料理ともなると小生には想像の域を出ないので、間違っているかもしれないが、その日のどの皿も、味がハッキリしていて個性的で飾りっ気のないものであり、おそらくイタリアの地方の郷土料理、家庭料理の味が原点かと思わせるものであった。
昨今のデザイン的にも美しい懐石まがいの女性的なイタリアンとははっきりと一線を画すもので、まるで「そういうヌーベルイタリアンは俺は作らないぞ」と言うシェフの意思がはっきりと伝わってくるものであった。
一言でいうなら、力強い骨太で野趣味溢れるものだが、しかしどこか洗練されているイタリアンと言うところか。

当日は車で出かけたので、呑めなかったが、トスカーナかピエモンテの赤があれば文句無しにさらに味が上がったに違いあるまい。

スタッフは可もなく不可もなくという感じで、インテリアはモダンでもクラッシックでも田舎や風でもなく、どちらかといえばトラットリア、ファミレス風で、レセプションスペースも無いから、ハレの日の食事としては盛り上がりに欠けるかもしれない、というのが正直な感想であった。
料理は、未だ直球のところを食べていないから何とも言えないが、おそらく日頃行くようなイタリアンではない、これが「イタリアの昔からの味だよ」という郷土料理風なものをベースに小林流にアレンジして、これでもかという風に出てくるのではないかと予想させ、今風ではないが故に逆に新鮮さを期待させるものであった。

帰りがけにエレベーターまで歩いて行くと、赤坂の特級中国料理人のいる中華の「カイメンホウ」があった。そこが移転して来たものなのか、支店なのかは知らないが、この建物も中々個性派を揃えているなあ、と妙に感心したりもした。

ビルを出るとすぐ近くに、未だひと気のない、夜は通い慣れた?「白いバラ」があったが、僅か数時間の違いで我が身の置かれた立場と周りの雰囲気の違いの落差に多少複雑な思いを抱きつつ帰路についたのであった。

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