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グルマンライフ

昨今の東京レストラン事情-南青山のL`AS&CORKについて

雑誌GOETHEが年に一回、現代の名だたる3人の食通がこの一年間に開拓し、太鼓判を押した店をジャンルを問わず推薦する「悶絶レストラン」特集を組む。
原則的に各人にとっては新規に開拓した店であるから、既に巷間、誰しもが認める有名店は含まれず、情報が常に新鮮であることから、小生に限らず、この企画のフアンも多いのではないかと思われる。
3人とは、「売れる本が良い本である」を社是にする幻冬舎社長のT.K氏、作詞家でおニャン子からAKBまでJKグループプロジューサーのK.A.氏、かつてはテレビ番組「料理の鉄人」を、今は「東京会議」を制作し、RED u35では新人料理人を発掘し、また老舗料亭からフレンチレストランまでをプロジュースするK.K.氏の3名である。全員とも、もう名を成してから既に長いが、その勢いは衰えを知らず、今が盛りの方ばかりであるから、当然あらゆる遊びには貪欲で精通し、食の探索も旺盛である。
3人の会話を読んでいると、端々の自慢話は、年寄りには少々食傷気味にもなるが、選んだ店は、さすがにというか、老いてもそそられる店ばかりである。それに互いが、自分の沽券に掛けて推薦しているから、大きな外れのあろうはずがないと思うのである。
が、しかし、中には行きたいと思っても、紹介制とあって、有名人と縁のない、名もない一般人では行けないような店がいくつも出てくる。無論彼らに行けない店など、元より存在しないのだから、読者がどう思うかは関係のない話なのである。
「有名店ではないとは言え、これだけの食材を使って、ここまで丁寧な仕事をし、この店構え、サービスでは安すぎると思う」と言って紹介しているのだが、いざお店の案内を見ると料理3万~では、バブルもはじけて、平成も30年になろうとする、慢性デフレの昨今の一般人の感覚とは程遠いのである。要するにゲーテイスト2017は、結果として、美味かろう、高かろうが基準になってしまっているキライがあるのである。

バブル崩壊以降、高級店の顧客単価は半分以下になったが、またぞろ超高級店が復活し始めた気配がある。旅館も、「星のリゾート」に続いて「ひらまつ&リゾーツ」が超高級オーベルジュの展開を始めて、全国的に再び高級志向の波がみられるようである。
それが時代をリードするものになるかどうかは、すでに縮小期と言われる老年期の小生にはニュートラルな判断は出来ないので、しばらく様子を見ないと何とも言えないだろうと言うしかないのである。

現在は、若い人の内向き志向というか、堅実な経済感覚で、一般に外食の顧客単価は下がっており、それにあわせて、極めてリーズナブルなコスパに優れたお店が出てきている。
料理人は才能豊かで、かつ勉強家で、決して料理の質には妥協せず、目一杯の料理を提供するが、料金はいろいろ工夫をして、ギリギリまで下げている、そういう心意気というかマーケッティングに長けたお店が増えてきた。

その中の一つがL`AS & CORKである。
既にL`ASのランチとデリについては書いたが(グルマンライフ2016.11.2,2016.11.9)、その後CORKもL`ASもディナーに行って、感心したのでまた取り上げようと思う。
L`ASとCORKは、今最も勢いのある街、南青山にあり、二つは系列店で、というかお店は背中合わせで、厨房を共有しているように建っている。通りに面したのがCORKで、奥に隠れているのがL`ASである。L`ASはテーブル席のシンプルなデザインのフレンチレストランで、CORKはカウンター席のみのワインバーである。食事は別のメニューであるが共に、一種類のコースのみである。CORKはワインがペアで付いている。
L`ASの12月のメニューをご紹介します。

1)ミモレットチーズの一口コロッケ

2)フォアグラのクリスピーサンド‘ストロベリー味

3)蕪のサラダ、レモンと白ワインのジュレのソース

4)イタリアのスープ[タルディ―ボ、うずら豆、ビーツ]

5)白子とキャベツのパイ包み焼き

6)エゾシカのロースト、タルディーボのソテー、鹿のラグーソース

7)ミニトマトのコンポート

8)焼き芋のモンブラン

CORKのワインと料理のマリア―ジュは

日本では、おそらく食べ手の文化が成熟していないからか、あるいは伝統的日本料理の文化からか、余りアラカルトメニューで食べる習慣が発達していないようだ。一流店に行けばいくほど、あれが食いたい、これも食いたいとは中々言わないで(言えないで)、店が用意したもの、あるいは店が薦めるものに容易に誘導されるのである。
この習慣は、店側には全く好都合で経営上は極めて良い環境になっている。コース料理一本であれば、結婚式披露宴のように材料に無駄が出ず、利益率が最も良いのだ。又貸切制というのもそうだ。料理、人数が読めて、無駄が無く利益率が高いのだ。
日本ではレストランウエディングというアイディアで大儲けしているレストランが幾つもあるらしい。
早く有名になり儲かれば良いという昨今の仏・伊料理界では贔屓、常連などという存在はあてにしない。客を大事にし、客を育てる気概が希薄なのだ。

フランス、イタリアでは、店のメニューからアラカルトを削ることはないし、原則として貸切はやらないのが普通である。今日出るかどうか分からないようなお皿の高級食材でも常に用意して、アラカルトに応えるようにしているのが、客に対する店の矜持でもあるのだ。(もっとも最近のヨーロッパ事情は知らないが、ムニュ・デギュスタシオンなんてのが主流になっているなんてことがある?)

日本はこのところ、コース料理でも、プリフィクス形式が多くなった。コース料理仕立てにして、前菜、主菜、デザートも、いくつかの種類の中から選択出来る好都合な方法だが、これなら客の側の選択権もある程度満足させられるし、用意する品数も制限されるから、店側も食材の無駄が省けて、料理人も調理法を習得し易いから、皆よいというわけだ。

LAS&KORKでは、きっちりワンメニュー設定で、時間は二部制で客を一晩で2回転させ、キャンセルにはペナルティを課して空席を減らす、テーブルクロスなどの経費を省く、カトラリー交換などの手間を無くして(同じものを使い続けるというのではなく、自分でとり出して使う)人件費を抑えるなどの工夫をして、料金設定を低くしている。
かといって料理に手抜きはなく、むしろカンテサンスに負けず革新的だと言ってよい。

写真で示したL`ASのディナーコースが5000円で、内容は3週間でそっくり変わるという。皿ごとに、見合ったワインが付くワインペアリング(5杯)も5000円と良心的である。CORKもほぼ同様の値段設定である。

しかし、すべてが画一的で、店側が主導権を持って能率的に食事が流れるように運んでいくのが気になるという向きには、ここは向かない。
極端に言えば、いろいろ言わずに店側の言うように従って食べて、時間が来れば追い出される、と取れなくもない。まるで、こちらが食べさせて頂いている気分になるという人がいるかもしれない。

いえ、これは決してホスピタリティが悪いという意味ではありません、システムの話です。従業員は皆親切、丁寧で気遣いが出来ている。

食事とは食べることだけではないと、食事に伴う時間の流れの豊かさに重きを置く人には、ここの合理性は食事の快楽性をそぐものと思え、楽しくないであろうと思う。
しかしTPOを考えて行けば、これはこれで大いに価値のある新しいレストランのスタイルであろうと思う。(かといって誰にでも真似ができるとは思いませんが)

それに何と言っても、「料理にはこだわって、客を満足させる」、ことは守られている。
もっとも、これで料理が平凡なら、ただのお徳なレストランになってしまうだろうが。

キノコ閑話―今年もキノコの季節は終わってしまった

家飯にしろ外食にしろ、キノコを食べないと秋は終わらない。
キノコ類は低カロリーで栄養、植物繊維も豊富で、香り、食感も良く、特に女性に人気の高い食物の優等生である。近年は大量栽培法の開発で価格も安くなったが、その分、季節感は無くなってしまった。椎茸、エノキ、シメジ、エリンギ、舞茸は年中スーパーマーケットに並び、今年のように野菜が高騰しても安定価格で主婦(夫)の強い味方になった。が、その分、味の方もそっけなく味気ないものになり、どれを食べても似たような代物になり果てた。

焼き椎茸(あさばの朝食で)

①焼き椎茸(あさばの朝食で)

王様椎茸のロースト(L`AS)

②王様椎茸のロースト(L`AS)

半世紀以上も前、小生が小学生だった頃の教科書には、わが国で初めて椎茸栽培を成功させた人の話が載っていた。確か、クヌギのような原木に鉈で割れ目を入れ、そこに胞子(菌)を付けた楔型の木片を打ち込む方法であったように思う。一人の山村のお百姓の熱心な研究心のお蔭で、大分の山村は豊かになったという、今で言う、地場産業創出の町興しの話であったから、おそらく社会科の教科書だったのかもしれない。
小生が、そんな話を良く覚えているのは、先生に「楔型とはどんな形か?」と質問され、答えられなかったためかもしれない。

現在では、日常食べるキノコはすべて人工栽培によるもので、それもおが屑を使った水耕栽培のようなもので太陽の光を全く浴びないで育つものだから異様に色白でビタミンDが期待できなさそうなものばかりである。
昔から香り松茸、味シメジといい、シメジは味が濃く珍重された。舞茸はもっと香りのある希少なキノコであった。なめこは大きさも不揃いで、ぬめりはもっと野性的で強烈であった。

小生の子どもの頃は、秋も深まって真っ青な秋晴れの日になると、授業を中止にして、裏山にキノコ採りに連れて行ってくれるような粋な教師が田舎にはいたものだ。
秋晴れの天気のいい日に、先生も授業なんかしてるのが嫌だったのだろうが、生徒も「さあ、今日は山に行くぞ」という言葉を固唾をのんで待っていたものだ。
落葉樹の葉が何重にも重なって落ちている林の中は、秋独特の湿気たカビのような菌類の匂いがして、顔を地面に押し付けるようにして斜面を仰いでみると、運がいいと松茸を見つけることが出来たし、切株にはなめこや舞茸が付いていた。木漏れ日の刺す林間はカサカサと足の音だけが響き、皆黙って真剣にキノコ探しをしたものだった。

松茸のフライ

③松茸のフライ

松茸のフライ(我が家風)

④松茸のフライ(我が家風)

松茸のすき焼き(我が家風)

⑤松茸のすき焼き(我が家風)

出汁で食べるすき焼き(我が家風)

⑥出汁で食べるすき焼き(我が家風)

現在でも、松茸だけは人工栽培に成功していなく、従って数桁違いに高価だが、早晩栽培に成功し、廉価になれば、独特の香りの強さがかえって料理の邪魔をして災いとなり、やがて敬遠されるようになるだろう。
エリンギも輸入品しかない頃は高価であり、その分美味いと思っていたが、国産で栽培されるようになってエノキ並みの価格になれば味も半分になってしまう。外国野菜のルッコラやズッキーニやパプリカも皆そうである。日本の農業の進取のアンテナの性能は決して悪くはないと思う。ポルチーニもやがてそうなるのであろうか?

ポルチーニ

⑦ポルチーニ

ポルチーニのインパデッラ(プリズマ)

⑧ポルチーニのインパデッラ(プリズマ)

舌平目のポワレポルチーニ添え(プロバンソー)

⑨舌平目のポワレポルチーニ添え(プロバンソー)

ポルチーニのピッツア(イル・ペンティート)

⑩ポルチーニのピッツア(イル・ペンティート)

食材は旬に先んじるとか、容易に手に入らないとか希少性が大事なのだ。
正月の数の子も、昔は悪質な仲買水産商社が買い占めて独占し、高止まりで価格調整をしたものだから、黄色いダイヤといわれるくらい高価であったが、その会社が政界疑獄絡みで摘発されると、放出され一気に安くなった。安くなると、もう数の子を珍重することもなくなり、現在では、昔は観たこともないような大きな腹のものを平気で買えるようになった。

しかしキャビアだけは相変わらず高い。今や出回っているものの殆どが外国産の養殖物であるが、チョウザメの養殖は難しく、育てるのに年単位の時間がかかるせいかもしれないが相変わらず高価である。一般に水産物の養殖物は天然ものに比べ味が落ちると言われ敬遠される。確かに鰤や鯛や車エビくらいなら、まだ小生でもその違いが分かるが、キャビアやトラ河豚となると、天然ものの記憶が定かではないから、養殖物でも感動するほど美味しく食べてしまう。

所詮味覚とは、記憶と相対するものであるし、記憶はいずれ消えていくものであるから、何であろうと食べた時に美味いと思えれば、それで良いのであって、他人が「味が分かるの、分からないの」と言うのは、とんだお節介というものだろう。そう言う本人も結局同じ穴のムジナに過ぎないのだし。

さて今年味わった貴重なキノコ体験を写真に記録して来ているので、このグルマンライフに記念として残しておこうと思う。また来年食べられるとも限らないし。

1)椎茸
焼くが一番。最近は巨大椎茸がトレンドのよう。
①②

2)松茸
今年はアジア産が不作で残念な年であった。(北朝鮮の核実験のせいか?)外国産の外れでもフライにして香りを閉じ込めて食べれば十分に美味い。
③④⑤⑥

3)ポルチーニ(仏名セップ茸) 
フレッシュポルチーニは独特の香りが強く、どんな料理でも旨いと思うが、素人には手に入らないので結局外で食べるしかないのが残念である。
⑦⑧⑨⑩

4)ジロール茸
日本の野生のシメジのようなモノか、茎が長くちょっと土臭い。

仔牛とフォアグラのパイ包みフレッシュジロール添え(プロバンソー)

仔牛とフォアグラのパイ包みフレッシュジロール添え(プロバンソー)

野生キノコ(ジロール、プルロット、花ビラ茸、カンドンチェッロ)の温前菜(プロバンソー)

野生キノコ(ジロール、プルロット、花ビラ茸、カンドンチェッロ)の温前菜(プロバンソー)

5)花びら茸
フランス産の見た目も味も上品なキノコ。

鮑と花ビラだけとパンチェッタ、鮑の肝ソース(プロバンソー)

鮑と花ビラだけとパンチェッタ、鮑の肝ソース(プロバンソー)

熟成牛肩肉と花びら茸のコンソメ煮(プロバンソー)

熟成牛肩肉と花びら茸のコンソメ煮(プロバンソー)

6)白トリュフ
黒トリュフは栽培出来るらしく、白との格差が広がったが、やはり香りは格段に違う。

アルバ産トリュフ(プリズマ)

アルバ産トリュフ(プリズマ)

巨大トリュフ(プリズマ)

巨大トリュフ(プリズマ)

白トリュフのタリオリーニ(プリズマ)

白トリュフのタリオリーニ(プリズマ)

キャラメル風味のクレスペッレと白トリュフ(プリズマ)

キャラメル風味のクレスペッレと白トリュフ(プリズマ)

7)大黒シメジ
穴場的なキノコ。その昔、「京味」の西氏は松茸より旨いよと言って焼いてくれたが、本当にそうかと思う程旨い。ポルチーニに近い食感。
最近は、デパ地下、時には近所のスーパーでも手に入るようになったので、見つけると家では炊き込みご飯や鍋物、すき焼きに使う。シメジと思うと高いが、松茸と思えば相当値打ち。近云ブレイクしそうな予感がする。

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯(我が家風)

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯(我が家風)

大黒シメジ(伊勢丹地下)

大黒シメジ(伊勢丹地下)

L`AS-東京フレンチのヌーベルキュジンヌ、揺るぎない視座を持つ兼子大輔シェフの店

前回のグルマンライフでお約束した通りL`ASに行ってきた。
土・日・祝日のみランチがあり、ディナーと同じメニュと言うのでクリニックのスタッフをお供に土曜ランチに行ってきた。
場所は、外苑西通りの南青山3丁目交差点を青山墓地下に向かって一つ目の信号、スキーのジローの角を右折して、坂を上りきった辺りを左に入ってすぐの今風な建物の1階にあった。通りに面してCORKという同じ系列のビストロ(ワインバー?)があり、その奥に目指すL`ASはあった。
ランチは12時スタートで、私たちが5分位前に到着すると、40席の半数位は埋まっており、間もなく満席になってしまった。オープンキッチンの飾り気のないカジュアルなインテリアで、紙のテーブルクロスすらなく、テーブルには銘々の引き出しが付いており、その中に本日のメニュとカトラリーが入っており、自分で適当にとり出して使うというスタイルになっていた。
これこそがオーナーシェフ兼子大輔氏の言う「美味しい料理と美味しいワインに特化した」店づくりかと思わせるものであった。
無駄な経費は使わないという考えの割にはギャルソンが多人数いて意外な感じがまずしたが、おそらく何か戦略があってのことだろうと思われた。
兼子氏と思しき人がカウンターの端に背中を向けて立って、客と料理の進行状況の指揮を執っているように見えた。思わずかつて東品川にあった「アロマクラシコ」を思い出した。まるで背中に眼があるかのように店のすべての状況を把握し、遅滞なく料理の進行を差配していた原田慎次シェフの剣客を思わせる緊張感あふれた姿を思い出したのである。それに比べれば、兼子シェフは肩の力が抜けたリラックスした雰囲気であり、それはそれで客に、変な緊張感を与えず心地の良いものではあった。ただキッチンの中のコックは3名くらいで、ソムリエ2名とギャルソンが10名程では、やはり熟練度のバランスが悪いのか、あるいは40席を間断なく仕切るに無理があるのか、シェフの意に反して料理のサービスのタイミングにバラツキがあったことも述べておかねばならないだろう。

料理は、シェフのラ・ベガス、コートドール、サンドラスなどオーセンティックな修行履歴から想像されるものとはかけ離れた自由な新しい感覚の料理で目を見張るものであった。既に多くのプロやネットの自称グルメ批評家たちの評価のつとに高いところであるから多言は要しないが、初めての訪問の小生には一種のカルチャーショックに近い体験であった。
料理の発想は極めて独創的で、こだわりの強い食材を使いこなし、まとめあげる力量は非凡な才能を十分にうかがわせるものであったが、何と言っても、3週でメニュが代わる9、10皿コースを、これだけの品質を保ちつつ5000円で提供してしまうサービス力は驚嘆に値するものであった。
この価格破壊は、おそらくは、同業他者には頭の痛い存在であろうかと推察できる。

料理のセンスはカンテサンスの岸田周三シェフに共通するものを感じさせるが、サービスの発想は、カーサヴィニタリアの原田慎次シェフに近いように思われた。兼子大輔シェフは傑出した二人の料理人のセンス、才能を併せ持った、現在の東京では極めて稀有なシェフであることに間違いないだろう。

英国の「FOUR MAGAZINE」が主催する料理人コンテストで最高賞RAISING STAR AWARDや小山薫堂がプロデュースしているRED (RYOURININ EMARGING DREAM) UNDER 35でゴールドエッグ賞(RED賞ファイナリスト6名)を受賞しているのも十分うなづけるものであった。

話はそれるが、今回の経験で小山薫堂に対する小生の評価も変わり、テレビ番組「東京会議」を見直そうかと思うようにさえなった。

唯一問題があるとすれば、余りのCPの良さから、予約が取り難いということであろう。
それと、ディナータイムに行かなければ分からないが、果たして客層がどうかということである。小生のようなシニア世代は一般に、女子会や不作法な若者にわが物顔されている店は馴染めないからである。

さて当日の料理を紹介しよう。


<自家製モッツァレラチーズ>
チーズに造詣は全くないから、特に感想はない。


<フォアグラのクリスピーサンド‘キャラメル・オレンジ風味>
これは定番の人気メニュのようだが、ハーゲンダッツのクリスピーに見立てて紙の袋に入って遊び心を効かせた一品であった。サンドするキャラメルの風味はその都度変化するらしいが、フォアグラはクラシックなパテ仕立ての様でもあり、旬香亭のお気に入りであったフォアグラの西京漬けのような口当たりでもあった。


<柿とアンディーブのサラダ>
このサラダの感触は、まさに1週前に味わった「RECIPIE AND MARKET」サラダの原点を彷彿させるものであった。
久しぶりにアンディーブのパリの味を思い出した。


<福田農園の王様しいたけのロースト、ラルド(豚の背脂を香辛料と塩漬けしたもの)を添えて>
10センチ以上ある肉厚の椎茸を焼いたものにラルドが添えられ、バルサミコ風味のソースがかかっていた。キノコは焼き立てが命であるから、冷めかけていては風味も口当たりも物足りなく、かつ少々焼き過ぎで、これは唯一残念なお皿であった。日本人のキノコの味覚は目の前で焼いて食べるに限るのである。ちなみに椎茸は裏返して焼き、襞にジワっと汁が出たら即食べるのが一番旨いとは、「あさば」の教えるところである。


<秋刀魚のポワレと2種の人参の温製サラダ仕立て、ミモレットチーズのクルスティアン>
秋刀魚の腹に人参のピュレを挟んでカリカリに焼いて、その上にスライスした人参の焼いたものが載り、ミモレットチーズのフライドチップスと細切り鰹節風におろしたものがかけてあった。ソースは秋刀魚のハラワタを、鮑の肝のソースのように仕立てたものでベストマッチであった。


<オマールエビと豚足を詰めたウズラのロースト、赤ワインとオマールエビのソース>
ウズラのローストの概念を一変するお皿。ウズラのお腹ににオマールエビと豚足を詰め込んでローストするという大胆な発想。不思議な程柔らかい歯ごたえ。オマールのビスク風なソースで。


<グランベリーのグラニテ>
高山に自生するコケモモの味によく似ていて、思わず物悲しい懐かしさが込み上げてきた。
コケモモは八ヶ岳コロボックルヒュッテの手塚宗求氏の哀しい山の物語にしばしば登場する八ヶ岳の味であるからである。


<ビターな思い出―カカオのアイスクリームレモン風味のソース>
濃厚なチョコレートのアイスクリームに柑橘系風味のチョコレートソースがよく合っていた。とんがりコーンもチョコレートで出来ており童心に帰る遊び心が見られたが、チョコはかなりビターで大人だけの味わいであった。
ビターな思い出とは何のことだろうか?

最後に、オリジナルハーブティがポットで出されたが、空になったポットをギャルソンはすぐさま下げて行ったので、お湯を足して持ってくるかと思いきや、そのまま下げたままであり、その手際のよい振る舞いは意味不明で終わったのである。

L`ASはオーナーシェフも従業員も皆若い。厨房にいるコックも二人のソムリエも驚くほど若いのである。おまけに客層も皆若い人である。なぜか、自分だけが場違いで少々気後れしたのも事実であった。

最後に耳寄りな情報を一つ。L`ASのシェフソムリエは田辺公一氏で、リッツカールトン東京に在職中は数々のソムリエコンクールで入賞した実力派で、L`ASでは兼子氏の片腕としてCORKを仕切っているようである。CORKではワインに合わせて一皿の料理が出されるという。
小生は次は夜のCORKを尋ねてみようと思いつつ午後の仕事に戻ったのである。

イートイン、テイクアウトの『RECIPIE & MARKET』ー簡便だが手抜きのない“品質へのこだわり

昨今のデパートの地下食では、有名食材店、料理店がテイクアウト商品を販売している隣でカウンター席を設けて、あるいはコーナーを作って、食事をさせるところが目立つようになってきた。それをイートインと言うらしいが、鮨であったり、丼物であったり、フレンチ、イタリアンであったりと多種多様だが、伊勢丹の地下ではキャビアにシャンパンというような豪華なものまである。
デパ地下に買い出しに行って、小腹がすいた時に、デパートの食堂とは違う個性的な有名店の逸品を食せるのは嬉しいことである。
小生は、残念ながら、未だイートインの経験はない。大した理由はないが、人に見られながら食べるのは何となく気が引けるのと、食べたければ、何もこんな狭苦しい所で食べなくとも本店で食べればよいという気になってしまうからである。
おそらく一度体験すればどうってことのないことであろうが、未だそのようなチャンスが無いのである。

蒸し鶏とブリ

蒸し鶏とブリ

 

先日、六本木のミッドタウンに出かけた際に、留守番用の昼ご飯を買って帰ろうと、B1にある[RECIPIE & MARKET]に寄ってみた。何処かの雑誌に載っていたのをうろ覚えではあったが思い出し、探して行ってみたのである。
表に面してガラスのショウケースが並んでおり、中には何種類もの料理がガラス瓶に入ったものとプラスチックのパッケージのものと、2種類づつ並んでいた。瓶の方がイートイン用で、プラスチックの方がテイクアウト用とのことであった。イートインの場合は瓶をレジで買うと、そこでお皿に移してくれ、それを持ってテーブルに行くという、ハンバーガー屋と同じスタイルのように見えた。
小生は、「ぶりのマリネのサラダ、グリーンオリーブマヨネーズ」と「蒸し鶏と温泉卵、パルメザンチーズのシーザーサラダ」のテイクアウトを買った。

ブリのサラダ

ブリのサラダ

蒸し鶏のシーザーサラダ

蒸し鶏のシーザーサラダ

さて家に帰って、開けてみるとまず仕事の丁寧さに驚いた。野菜と肉魚は細やかにラップで区切られており、ソースはキャップ付きのボトルに入れられ、クルトンはビニール袋に入っていた。野菜はパリパリの新鮮そのもので質が高く、ブリの薄造りは、きちんと鮮度を保っており、蒸し鶏もぱさぱさ感は微塵もなく、ソースの旨さと言い、まるで一級のレストランで出されたような味わいのお皿になった。

ワインを一杯飲んで、ずいぶん贅沢な気分の一人ランチになった。

値段はいずれも700円台で、半額程度とはいえコンビニのサラダは一体何なんだろうか、あるいは高い一流ホテルの有名シェフのデリカテッセンとは何かと考えてしまった。
コンビニサラダのおよそ5~10倍の価値はあるだろうし、有名シェフの総菜より、ブランドに驕りが無いぶん神経が細やかで出来がいいのである。

これだけのものをこの価格で提供する料理人はどんな人物か興味が湧いたのでネットで調べてみた。
小生は行ったことはないが青山のL`ASというフレンチンレストランのオーナーシェフ兼子大輔氏がオーナーで“テイクアウトでも、気持ちがあればこれだけのものが出来るぞ”という意気込みで始めたらしい。
履歴を見ると、大阪のラ・ベガスと三田のコート・ドールで修業して渡仏とあるから鉄壁のキャリアである。フランスでは何処のレストランに居たかは書いてなかったが、それ相応のシェフの所で学んできたに違いないだろう。

おそらくL`ASはそれなりのお店であろうと想像でき、食べる前から先入観でモノ言うは私の主義主張に反するが、まずは外れてはいまいと思わせ、久々に新規開拓意欲が湧いて来た。

近日中には訪れるつもりであるから、その結果は又ご報告するので、乞うご期待です。

オー・プロヴァンソ―秋のお祝いのスペッシャリテ

私のクリニックのスタッフが寿退社することになったので、近くの「オー・プロヴァンソー」にお祝いのスペッシャリテを頼んでおいて送別の食事会をした。
メートル・ドテルの千葉氏によれば、当日の料理はすべて現在のメニュには載っていない中野シェフが今日のために用意した特別料理ばかりということであり、(額面通り信じて)私達は恐縮し姿勢を正して有難く頂戴したのであった。
実のところは、私もそれ程頻繁にプロヴァンソーを訪れている訳ではないので、通常のメニュでも十分に新鮮だったのではありますが、、、。
お気遣い申し訳ないことでした。
以下に示す当日のメニュは、後日、千葉氏からメールで送られて来たものである。(お手数おかけしました)

アミューズはトウモロコシの冷製スープ、カボチャのエクレア,蟹クリームコロッケ

アミューズはトウモロコシの冷製スープ
カボチャのエクレア,蟹クリームコロッケ

前菜、帆立貝のポワレとシャインマスカット、ブルーチーズのクラングル(クッキ-)とマスカットのジュレ

前菜、帆立貝のポワレとシャインマスカット
ブルーチーズのクラングル(クッキ-)とマスカットのジュレ

鮑 花びら茸とパンチェッタ 鮑の肝ソース

鮑 花びら茸とパンチェッタ
鮑の肝ソース

スカンピ(赤座海老)のカダフィ巻 香草バターソース

スカンピ(赤座海老)のカダフィ巻 香草バターソース

仔牛とフォアグラのパイ包み焼き フレッシュジロール茸添え トリュフソース

仔牛とフォアグラのパイ包み焼き
フレッシュジロール茸添え トリュフソース

シェフからのお祝いプレート

シェフからのお祝いプレート

デザートはモンブラン

デザートはモンブラン

さて、感謝を込めて感想を少々。
①アミューズはヴィッシーソワーズのジャガイモがトウモロコシに。なるほど、我が国ほどトウモロコシの美味い国はないのだから、試してガッテンと思わせた一品。

②半生に火入れしたホタテと、今が旬のマスカットを合わせた口当たりも爽やかな美しい、見てよし、食べてよしの一皿。

③蒸しアワビはボイルした後、軽くソテーしてあり、鮨屋の蒸しアワビとは一味違い、やはり鮑にはバターソースがよく合うと再認識した一品。花びら茸が、見た目も鮑のエンべラようで食感もちょっと似ていて不思議な感じ。上に乗っていたパンチェッタの役割はよく分からなかった。
④ラングスティーヌ(赤座海老)をカダフィという細いパスタを衣がわりにして揚げたエビフライ。
海老の香りを閉じ込めるのはやはりフライが一番であるというのが、小生の持論。伊勢海老も一番旨い食べ方は、やはり海老フライであると教えてくれたのは旬香亭の斎藤氏だったなあ。
ついでながら松茸もフライで食べるのが一番旨いと思う。つまり香りの強い食材は、フライにすると香りが立って旨いのだ。(天麩羅よりも)松茸のフライは今はもうないが、赤坂の「京料理・高橋」で教わった。

なぜか、このお皿はシェフが自ら運んでくれたのは、小生が愛知生れと知ってのことかどうか。「エビフライです」と言って、少しニヤット微笑んだような、気のせいかもしれないが。「海老フリャー」とは言わなかったけど。

⑤最後は、フォアグラ、仔牛、パイの三重層にトリュフのソースが良くマッチしたお皿。やや定番風ではあったが、フレッシュジロール茸が気前よく添えてあり、心意気を感じさせるメインディッシュではあった。

⑥そしてシェフから結婚のお祝いプレートのプレゼント。
チョコレートで書かれた祝い文字は中々達筆な日本語でした。やはり卓越したフレンチシェフは絵心ばかりか筆も立つのかと,改めて感心したりもした。彼は、ひょっとして華やお茶もやるのかな。
その昔、伝説のバーラジオの尾崎氏は、バーテンダーにはお華とお茶は必須科目と言っていたな。
そういえば、形成外科学会でも形成外科医は「生け花」を学ぶべしといった発表があったな。彼の言いたいことは分かったけど、当人がもう少し生け花も手術も上手なら説得力があるのになあと思ったりしたものだ。

ところで、中野シェフは腕ばかりか、さらに口も立ちます。

花嫁を囲んで記念写真です。
ご結婚おめでとうございます。
〇〇ちゃん、いつまでもお幸せに。

ダイニズテーブルースノッブさと斬新さが少しも変わっていないヌーベルシノワの星

雑誌GQ10月号を読んでいたら、「GQ TASTE 話題のグルメ」として中国料理最前線という特集が組まれていたので興味深く読んだ。『の弥七』でも出て来るかと思ったが、なんと「ダイニズテーブル」が出ていた。
もう30年以上前になるが、中華をフレンチスタイルで食べさせるお洒落な店として一世を風靡したが、もう過去のお店かと思っていたから驚いたのである。
青山骨董道りから、根津美術館の方に入る交差点の直ぐ右側の所にあるから、時々その前は通るので、未だお店があることは知っていたが、かつてのオーラは感じられず、良く続いているなあ位に思っていたのである。

今ではさほど珍しくもないが、中華料理をフレンチレストラン以上にシックなインテリアで、趣味の良い洋食器で一銘づつサービスする斬新なスタイルでヌーベルシノワを東京に初めて登場させたのは岡田大貮という洒落者だった。1980年代初頭の頃のことで、東京でも、未だフレンチといえばホテルのレストランを思い浮かべるくらいの、東京の食文化が花開く夜明け前の事であるから、それがいかに時代を先取りしたものであったかは今になって良く分かるのである。

店内

岡田氏は、その他にも原宿のマンボウズ、ブラッスリーDなどレストランやクラブを経営していたが、中でも原宿の先、千駄ヶ谷小学校の近くにあった「クラブD」は当時の最先端を気取る人達が集まるメッカの様であり、小生のような者は一度行ったらもう怖気づいてしまい二度目は行けなくなるようなディスコであった。まさに今でいうヴィップ御用達クラブであった。

骨董通りも、その頃からお洒落な家具屋、雑貨屋やブティック、レストランがどんどん増え、様変わりして行った。当時は根津美術館の入り口は骨董通りにあったような気がする。
インテリアのIDEEの旗艦店が出来、やがてIDEE Pacificも出来、日本にアジア家具のブームが来て、やがて終わり、いつの間にかIDEEも居なくなった。B&BもPapasも居なくなった。
今この辺りで残っているのは、JAZZのBLUE NOTEとJIL SANDERと岡本太郎記念館とダイニズテーブルくらいではないかと思う。最も岡本太郎記念館は彼が亡くなってからであるから当時はまだ無かったかもしれないが。

東京はバブルが正に始まる直前で、すべてイケイケの風潮で、食事もどんどん高くなっていったから、ダイニズテーブルも相当高かったような気がする。

今回雑誌で紹介されていた料理に興味がわいて、久々に行ってみようかとサイトで確かめたら、ずいぶん安くなっているのに驚いた。きっとお店もチープになっているのだろうと予想して訪ねたのだが、入り口の雰囲気から接遇から、昔と変わらないものであった。
インテリアも変わらず、サービスも変わらなかったが、安くなった分、客層もカジュアルになっており、軽装の男性の二人連れが大声でしゃべるのには閉口した。

興味を持った料理は大量の唐辛子を炒って食材に風味付けする料理で、前に『の弥七』で食べて感心したからである。

その調理が入ったコース料理を食べて来たのでご紹介しよう。

前菜

前菜

イタリア産の栗と生ハムの春巻き

イタリア産の栗と生ハムの春巻き

マコモ茸入り里芋の団子のコンソメスープ 干し貝柱の香り

マコモ茸入り里芋の団子のコンソメスープ
干し貝柱の香り

金のかに玉

金のかに玉

大エビの黒酢クリーム炒め ポルチーニ茸風味のマッシュポテトと共に

大エビの黒酢クリーム炒め
ポルチーニ茸風味のマッシュポテトと共に

カシューナッツをまとった牛フィレ肉のロースト朝辣椒の香り

カシューナッツをまとった
牛フィレ肉のロースト朝辣椒の香り

角煮と青梗菜の炒飯

角煮と青梗菜の炒飯

デザート 梨のコンポート

デザート 梨のコンポート

タピオカ入りマンゴのスープ

タピオカ入りマンゴのスープ

以上がプレミアムプリフィックスコース8000円である。

今のお店のコンセプトはフレンチ料理人が考えた中華料理だそうである。
確かに春巻きは生ハムと栗という斬新な取り合わせであるし、「金のかに玉」はズワイガニの脚の上にスフレかと思わせるようなふわふわのオムレツが乗せてあるものだったし、海老の黒酢クリーム炒めの附け合わせのマッシュポテトはフレッシュポルチーニが刻んで入っており、その芳香は十分に妖しいものであった。
目的の唐辛子炒めの牛フィレはナッツがパン粉のように絡み、ロゼにローストされており、それだけでも十分に美味しそうなのだが、それに大量の唐辛子を炒って、かぶせて風味を付けて中華のローストビーフになっていた。
唐辛子は一緒にローストしたのかどうか、詳細は不明である。

最近は和食でもトリュフを使ったりするが、唐辛子の香りで来るところは心憎い。
もし『の弥七』を知らなかったら、もっと感動しただろう。

食材の取り合わせは、「の弥七」に劣らず斬新だが、味付けは「の弥七」程、中華の伝統を超え過ぎてはいない。
ワインも値ごろのものが揃えてあり、店の見栄のような高級ワインがリストにないのも潔い。

全体にはかつての高級なお洒落な雰囲気は保っているが、客層はかなりカジュアル化して気どりが無くなっており、プライスダウンもあって使い勝っては良くなったような気がする。
しかし当時を知る世代には、バブル期のような‘すましこんだ滑稽さ‘も今は懐かしい。
実に、世の中は「虚」で満ち満ちていた。

ダイニズテーブルをこれからどのように使うかは、もう何度か足を運ばないと分からないが、良いテーブルに当ればCPは相当良いと思う。

ル・クリスタリーヌ―光の演出の正体は?

小生も、今流行の糖質(炭水化物)ダイエットを始めて、5か月が経った。お蔭でめっきり外食の機会も減り、従ってアルコールを飲む機会も減り、酒量も一段と減った。それは年のせいもあるのだろうが、ワインなどグラスの3杯も飲めば早くも酩酊状態になる始末である。しかし、それにはそれで良いこともあり、お蔭で糖尿病の指標でもあるヘモグロビンA1cは6.8から5.8と正常になった。
そんな近況の中で、久方ぶりにフレンチレストランに行った。青山は骨董通りのニッカビルの横を入ったところにある「ル・クリスタリーヌ」である。この店は、小生の唯一の芸能関係の女友達K.L嬢の行きつけで、これまでに数回来たことがあったが、今回は美女4人を交えて初孫誕生のお祝いをした。
ル・クリスタリーヌの名前の由来はマドモアゼルの名前かと思ったが、クリスタルから来ているそうで、お店のキャッチは食事と光のハーモニーだそうである。お店は入り口にオープンテラスがあり、花の鉢も置かれ、女性受けを狙った店作りであろうが、全体のインテリアのセンスは昭和チックであり、現在のこの界隈のモードからは少しずれているような感じである。
昔のことは知らないから、本当のことは分からないが、イタリアンのキャンティやアントニオのように、かつては自他ともに認める最先端のレストランであったのが、今はノスタルジックに時代性から遅れているのに、それに気付かない、変に洋食屋っぽい、奇妙なちぐはぐさがあるように思えてしまうのである。

さて注文したのは「6月の料理フェア、フランス風ローストビーフ&ワインフェア」でワイン飲み放題のコースであった。実は予約を決めた時点では、アスパラガスのコースがあったのでそれにしたのだが、当日行ってみると、終わっていてないという。少々合点がいかなかったが、自分で直接予約をしなかったから、誰のせいにするわけにもいかないが、店のホームページにも限定期間を載せるべきではなかったかとは思う。

さて、当日の料理をご紹介しよう

鯛のマリネとブロッコリ―のタルタル、 赤スグリのドレッシング

鯛のマリネとブロッコリ―のタルタル、
赤スグリのドレッシング

フォアグラとトリュフのスクランブルエッグ

フォアグラとトリュフのスクランブルエッグ

冷製人参のポタージュオレンジ風味

冷製人参のポタージュオレンジ風味

お口直しのシャーベット

お口直しのシャーベット

ブルゴーニュ風ローストビーフ

ブルゴーニュ風ローストビーフ

パリ風ローストビーフ(マッシュルームのソース)

パリ風ローストビーフ(マッシュルームのソース)

フランボアーズとシャンパンのスープ パセリのアイスクリーム添え

フランボアーズとシャンパンのスープ
パセリのアイスクリーム添え

白ワインはミッシェル・ランシュ(ソーヴィニオン・ブラン)
赤ワインはヴァルモン(カベルネ・ソーヴィニオン)

最初のオントレと最後のデザートのお皿はテーブルの下からライトが射し込み、ガラスのお皿を通して料理が光る寸法になっているのである。これこそがお店の名前の由来となった光の演出なのである。

小生のグルマンライフで取り上げるお店の採用基準は、1)高級だが、確かにそれだけの価値がある処、2)安いが美味く、コストパフォーマンスがとても良い処、3)お店のホスピタリティが並はずれて優れていて居心地が良いところ、4)お店のインテリア、設えが非常にセンスが良く群を抜いている処、5)今は未完成で問題もあるが近い将来は大化けしそうな予感がする処、などであるが、クリスタリーヌは、正直どれにもあたらない。

しいて言えば立地、店構えの割には価格設定が安いことであろうか。ディナーコースでもランチメニューがあり、1750円、3800円、5500円、それに季節替わりのスペッシャルコースで7500円である。もちろんアラカルトもある。おそらく廉価なコースではコスパが良いのではないかと推察できるが、味に特段拘らなく、ワインをたくさん飲める人は、飲み放題にしてはワインの選択が良いので、店のスタッフの心配を気にせず、どんどんリクエスト出来る人ならスペッシャルコースが価値があるかもしれない。
但し、フロアースタッフは慇懃無礼を絵にかいたような態度で、いくつかのグラスのワインが干されていようと、遠くに立っていて、声を掛けねば気にも留めない風情なのである。

そして何よりも、当店の最大の取り柄は、光のパフォーマンスに感動してくれそうな、未だ大人のレストランも南青山界隈も未体験なウブな女子を喜ばせるには最もコスパが良いと言える点であろう。

ちなみに光の演出は、決して前もって、連れには教えないのが鉄則である。
それはミステリー小説のトリックを教えないのと同じである。

逆にあらゆる点から、オヤジだけで行っては、意味がない店であると断言できるのもル・クリスタリーヌである。

紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立

紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立

3月になると、紀尾井町の中野食堂、ビストロ「オー・プロヴァンソー」では恒例のホワイトアスパラガス尽くしの特別コースメニューが始まる。フランスはロワール産のホワイトアスパラガスを使うので、3月いっぱいで終わってしまう。
フランスではホワイトアスパラガスは一般には5月が旬であるから、フレンチでも和食の筍のように新物が珍重されるのであろうか。
アスパラ尽くしは、昨年もこの欄に載せたが(グルマンライフ2015.3.18)、今年の料理はまた一段と進化していたので再びご紹介しようと思う。このコースメニューは3月いっぱいはやっているので興味がわいたらお試しくださればと思う。
今回は縁あって、グルメでも知られた高名な脚本家S女史とご一緒したので、中野シェフも一段と張り切ったに違いない。従って今回ここでご紹介するメニューはS女史向けスペッシャリテになっていますので、通常のコースメニューとは多少異なっていますが、それは有名税を払っている人だけの特権的役得分とご理解くださればと思います。

1.フレッシュのサラダ仕立て。
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立
半生に火入れしたランゴスティ―ヌと鮑をスライスしたものの上に アスパラガスを生のまま薄くスライスして乗せて、生雲丹のソースをかけた一皿。アスパラガスが野生のウドのような食感で新鮮であり、手長海老と生雲丹のソースとのハーモニーも抜群であった。

2.フラン(茶碗蒸し)
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立
ホワイトアスパラガスを濾したものに生クリームと卵黄を加え、毛蟹のほぐし身を加えて蒸して茶碗蒸し様に仕立て、カプチーノの泡に黒胡椒を振り掛けたもの。

3.蒸したアスパラガスを海苔のソースで
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立
ホワイトアスパラガスは皮に旨味があることは良く知られている。だから剥いた皮と一緒に茹でるのが良いとされているが、それなら蒸した方がうま味が逃げないだろうというのがプロの発想なのであろう。蒸したアスパラガスにヴェルモット酒で蒸した蛤とその出汁に生海苔を入れたソースで頂く春満開の一皿。

食事中の会話では、S女史が手掛けた美容外科クリニックを舞台にしたドラマが話題になり、そこで監修などで協力した医師の多くが小生の近い知り合いであったり、なかには、おかしなGMエピソードを繰り返す某女医の話などが共有出来たりして面白かった。またS女史の、J女子大付属高校の思春期から成人期に至る4人の女性を描いた小説の主人公の一人のモデルとなった人が小生の医局の後輩であったりして、世間の狭さに改めて驚いた。
また「先生(小生のこと)はいい歳になってから、何故、形成外科から精神科に替わったのですか?」と質問を受けたので、「精神科は、形成外科の対極にありながらも、何処かで繋がっており、それは私にとって影(アニマ、アニムスのように)のようなもので、これを体験することによって、自己実現が出来、人生の終盤に当って自分の統合が図れ、無事に成仏出来るのではないか、と考えたからです。」とお答えした。
実は、一人の作家(含む脚本家)の書く小説をフィクションとし、エッセイをノンフィクションとして読むと、作家は自分のいくつもの影を小説の中の主人公に投影して、いわば自己実現をはかっているのではないだろうかと思え、だからこそ小説家は案外「老いる」ことのストレスが少なく長生きするのではないか、と不遜にも思ったりしたが、それを確かめる機会はなかった。
ジルサンダーを粋に着こなすS先生においても、その風貌からは伺い知れない、大胆な多面性があるのではないかと怪しんだが、それを確かめるのは、せめて次の機会以降にすべきかなと思い、今回は言葉を飲んで食事に集中することにした。

4.蒸したアスパラガスをオランデーズソースで
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立
定番のオランデーズソースであるが、エストラゴンを漬けたビネガーで酸味を補ってオリジナリティを出している。程良い硬さに蒸したアスパラを丸ごと頂く。
小生はもともとビネグレットソースの方が好みであるが、それはおそらく40年前にパリのビストロで初めて食べたホワイトアスパラガスがそれであったので、その初体験の味が忘れられないからだと思う。若き日の、5月のマロニエの新緑の眩しいテラスでの食事は今でも目に浮かぶ。

5.フランス産仔牛フィレ肉のロースト
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立
絶妙な火入れでローストされた仔牛のフィレ肉にホワイトアスパラガスを短冊切りにしソテーしたものを載せ、海老と黒トリュフのソースでいただく一皿。
シェフの仔羊のローストもまた逸品で、小生の「最も美味しい一皿」の一つだが、このロティの火加減だけはそのうちに盗みたいものと狙っている。

6.チーズはエポアスと、ブルー・デ・コース、ミモレットの盛り合わせで。
7.デザートはデコポンのコンポート
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立
デコポンのコンポートにメレンゲを混ぜたフレッシュチーズとクランブルのクッキーが添えられ、ライムゼストとオリーブオイルがかけてあった。デザートはその他にモンブラン、フレッシュイチゴのデザートなどがあり、皆がそれぞれを楽しんだ。

以上、料理はホワイトアスパラガスの滋味をとことん引き出すために、クラッシックな手法から和風テイストにモディファイされたものまでと、シェフの力量がいかんなく発揮されたものであり大満足であった。
料理は星つきのグランメゾンに劣らないものであるが、プライスはビストロレベルであるのが、小生のような年金生活者にはまた殊の外、嬉しいのである。

中野シェフは京橋のシェ・イノで修業し、溜池のボンファムでシェフとして腕を振るいながら自らの料理のスタイルを作り、現在のオー・プロヴァンソーのオーナーシェフとなって9年目という、まさに脂の乗り切っているフレンチのプロフェッショナルである。

小生が医学部の教員をしていた頃は、臨床、基礎研究ともに『守・破・離』を信条として、自らも、そして後輩達にもその様にあるように指導してきた。

「守」とはこれまでに到達された学問、臨床を徹底的に学習し自分の身に着けるようにする、「破」は、それらが本当に身に着けば、それまでの到達地点の限界が綻びのように見えてくるという意味である。そしてやがてその先を行く自分のオリジナリティが出てくる、つまり「離」となるのである。

これは半導体や光ファイバーの開発者である文化勲章の西沢潤一先生の著書「独創するは我にあり」から拝借した研究者としての姿勢の理念であるが、同じことは料理人にも言えると思う。
シェフ中野氏はシェ・イノで師匠の鉄拳を浴びながらも毎日毎日同じソースを作りながらフランス料理の基礎を身に着け(つまり「守」)、ボンファムで責任者になると自分の料理のスタイルを模索し始め(つまり「破」)、そして目途が付くと自分の店を持ち、更にスタイルを深化させ、今まぎれもなく自分流を確立した(つまり「離」)のではないかと思う。

小生は未だ一年足らずのお付き合いであるが、この間にも料理は確実に進歩し、今や自分の料理に迷いが無く、自信に溢れているのが良くわかる。多分イメージした料理が自由自在に融通無碍に作れるのであろう。客のリクエストは何でも受けるという、いかにもプロフェッショナルな料理人のスタイルが僕の感性によく合うのである。
それにユーモアを解し、会話のセンスも良い。

おそらく、三つ星、二つ星クラスの有名店は殆ど御存知であろう、グルメとしても有名なS女史も、今回のホワイトアスパラガス尽くしのメニューにはご満足いただけたのではないかと思っている。というのも、中野シェフの志のある料理人こそが達し得る卓越したセンスの良さを、作家の鋭い感性で、感じとって頂けたのではないかと思うからである。
紀尾井町オー・プロヴァンソーの春の風物詩―白アスパラガス尽くしの献立

中華の新星、荒木町「の弥七」―店主は天才料理人なのだ

金柑のおかゆ

金柑のおかゆ

 私の食の情報源である「東京最高のレストラン」2015年版、週刊文春の「切り捨て御免!食味探検隊」、尊敬するフードジャーナリスト犬養裕美子レストランガイドの3本立てで激賞されていて、行かない手はないと思いつつも同伴相手に恵まれず放置していた、荒木町の中華料理店『の弥七』にようやく行った。何の因果かOIN高校の同窓会を荒木町でやることになり、なんとその一人が手練手管にものを言わせ、直前にも拘わらず、『の弥七』の予約をとってきた。

 私の居た大学病院の形成外科は、最近は女医の入局が多いのでありますが、昔は山岳信仰のように女人の入山は禁止であったにも関わらず、たまにはぽつぽつとは居り、その多くは付属の女子高出身者かOIN高校の出身者であった。
私の知るOIN出身者の共通点は皆酒豪であるコトである。男勝りというより、まるでウワバミ親父のような酒の飲みっぷりなのである。塩をなめてでも飲む、倒れてでも飲む勢いなのである。もちろん、才色兼備を誇るOIN出身者の多くは決して彼女達と同類だとは思いませんし、思いたくもありませんが。

 今年の専修医の一人がやはりOIN出身であり、卒後10年位の某S会病院の形成外科部長をしているM.W嬢と膝を詰めて一献飲みたいという強い要望があり、そこで優しい先輩を自称する私が一肌脱いで同窓会を設定したのである。私はもちろんOIN出身であるはずもないのにかかわらずです。

 M.W嬢は国立C大の学生時代から千葉の某FM放送局のパーソナリティをしており、未だにその電波エリアの男性諸氏(すでに中年男になってるはずだが)のアイドルであり続けながら、今は荒木町を夜な夜な徘徊しているうちに数多ある荒木町の料理屋、飲み屋のオヤジさんたちのマドンナにもなっている関係で、この界隈の予約の取れないお店でもいとも簡単に席が取れるのである。

前菜の3段重

前菜の3段重

一の重:焼ごま豆腐、九条ネギのポン酢かけ

一の重:焼ごま豆腐、九条ネギのポン酢かけ

二の重:よだれ鶏

二の重:よだれ鶏

三の重:八寸

三の重:八寸

 さて『の弥七』であるが、この妙なネーミングは実家の高知の中華料理屋が「風車」というので、その続きの『の弥七』としたとの事であるが、ちなみに店員に尋ねた時には、「肩車の弥七」といわれた時は戸惑ったな。店員の勉強不足が目立つ店ではあったな。
 場所は、荒木町の杉大門通りと外苑東通りの交差する辺りで、あのやたら元気な岩井食堂の先である。

寒ブリの刺身

寒ブリの刺身

銅製の醤油差し(ナンプラーベース)

銅製の醤油差し(ナンプラーベース)

 料理は中華というより、基本は和食をイメージさせる食材を和食器を使って盛り付け、調味料など味付けは、中華風からエスニック風まで独特の個性を出しているものである。
 まずは、そのうまさには驚く。私の評価は店主、山本真也氏は天才であるというものであった。ヌーベルシノワで鳴らした千歳烏山の広味坊から幡ヶ谷の美虎(みゆう)に移った五十嵐美幸氏とは、一味もふた味も違う。五十嵐氏の料理も登場時は感嘆と称賛で歓迎されたが、いわば想定可能な範囲での革新であり、山本氏の料理は想定外のものと言えよう。想定外の食材を組み合わせて、想定外の調味料で見事なハーモニーを作り出す感性は、やはり天分のものとしか言えないだろうと思う。研鑚とか頭の中での計算では作り出せないバランス感覚は、まさに食材の波動と料理人の波動が共振共鳴したとしか説明のつかないものであるとさえ思う。

揚げた黒豆とカラスミ入りの焼き餅

揚げた黒豆とカラスミ入りの焼き餅

茄子の唐辛子煎り

茄子の唐辛子煎り

ウーロン茶ミントティ

ウーロン茶ミントティ

 訪れた当日は春節、旧正月であったことも計算されてか、黒マメの揚げたものとか、カラスミを閉じ込めた焼き餅が出た。三段重の前菜は得意な定番と八寸のような感覚の重であった。最後は土鍋炊きのご飯と耐熱容器に入った麻婆豆腐がお約束のようであるが、間に出るミントティもCICADAに負けないうまさであった。
 僕はプロではないから、微妙な味付けの表現は出来ないが、今までに味わったことのないものがこれでもかと出され感動の連鎖であった。

土鍋の白米

土鍋の白米

麻婆豆腐

麻婆豆腐

甘夏入り杏仁豆腐

甘夏入り杏仁豆腐

 料理は6500円、9000円が基本で、前日予約が必要な12000円のコースがあるらしいが、僕たちは初めてでもあり6500円の料理を食べ、質、量ともに十分に満足できるものであったが、やはり9000円のコースにすれば良かったと後悔した。これ以上だと一体何が出るのだろうと、思わず期待させたのだ。

 会計をしながら、早く裏を返さねば、と思いつつ、さて次の相手は誰にするかと不埒にもふっと思ったのである。OIN嬢たちよ、許されよ。

 惜しむらくは、店のインテリアのチープさである。味は特級でも、インテリアが情けなくては気分が盛り上がらず、デートには使えないからなあ。OIN嬢たちよ、安心されよ。

 

月島ホルモン「在市」-飛騨牛で京風ホルモンを食す

ごちゃまぜ焼き

ごちゃまぜ焼き

 小生のホルモン好きは既に何度となく述べてきた。ホルモンといえば、昔は豚の腸や肝を串に刺して焼き鳥風に焼いたもつ焼きが主流であり、それが赤ちょうちんの焼き鳥の定番であった。
 今は、ホルモンといえば、焼肉屋の牛の大腸、小腸、胃袋、横隔膜などが一般的になってきた。
小生は赤ちょうちんの焼きトンも好きだが、現在は、昔のように丁寧な下ごしらえとタレに凝ったいい店がなかなか見つからない。(吉田類の酒場放浪記では良く登場するのに、なんでか?)
 昔は新宿西口の大ガード裏の小便横丁(現おもいで横丁)や渋谷の京王線ガードの近くには旨いモツ焼きの店が沢山あった。シロ数本でカストリ焼酎を一杯やるのが、田舎からポットでの学生にとって、大人になったような精一杯の背伸びであったような気がする。その後社会人になって、未だ飲酒運転が犯罪では無かった頃は横浜反町や国立駅裏の焼きとり(モツ)屋にも良く遠征したりしたものだった。又手術が深夜に及ぶときは、信濃町から深沢までお気に入りの店にテイクアウトで買いに行ったりもした。

 渋谷の「ゆうじ」を始め、いくつかのホルモンの名店を覚えて以来、小生は、ここ数十年はホルモンが、焼き肉の代名詞となったが、近年は巷でも牛ホルモンは大人気である。しかし数年前から食品衛生法がうるさくなり、生レバー、ユッケが消えてしまい少々興ざめの人も多いのではないでしょうか。20年ほど前は、四谷荒木町ではレバーに限らず、多くの消化器系、生殖系の臓器を生でスライスして出す店があり、しばしば通ったものであったが、今思えばぞっとするような話ではあります。

店内風景

店内風景

 さて、今回紹介するのは、月島にあるホルモン屋「在市(ざいち)」です。
 月島といえば下町のB級グルメ(もんじゃ)のメッカのような印象がありますが、月島は行ってみると、街並みは清潔でスッキリしており、建物も小奇麗なものが多く、意外な感じを受けます。(該当区民の皆さんには失礼しました。)
 在市も焼肉屋としては、モダンな清潔感のあるインテリアのお店で、赤坂あたりで名を成しているような焼き肉店よりかなり洗練されている。
 オーナーが岐阜県の出身だそうで、その縁で飛騨牛の上ものが手に入るので飛騨牛専門店を名乗っているようです。飛騨牛といえば、元は松阪牛の名牛一頭を仕入れたことから始まり、努力の甲斐あって昨今は松阪を超える程のブランド化に成功したものであります。

 小生は昨年の後半に3度立て続けに訪問しており、行けば目一杯食べて来るので、おおよそのメニューとシステム、店の雰囲気は理解したつもりです。
 お店はテーブル席が大小5つくらいとカウンター席があります。その他にも2階もあるようです。カウンターには座ったことが無いので分かりませんが、テーブル席はかなり強力な吸煙装置が付いており煙が目に沁みるようなことはありません。それに、火力は炭火ですが、焼き網が独特で、まるでジンギスカン鍋のような形(そのもの?あるいはプルコギ鍋?)をしており、焼いた肉から出る油が溝を伝わって鍋の淵に集まるので、炭に落ちて燃えて煙が出るようなことはありません。従って団扇や氷で煙処理をする必要が無く、良いアイディアだと感心しました。

牛の部位イラスト

牛の部位イラスト

 メニューは豊富で、牛の殆どの部位が食べられますが、肉の部位の名称が立派なイラストになって壁掛けになっていて、あらためて見ると勉強になります。
 基本はお店の薦めに従って食べればハズレはありませんが、店員の知識量に差があり、また、ここでは肉はお店の人が焼いてくれますが、それも技術力に差があり過ぎるのが当店の最大の課題ではあります。これは鮨屋の握り、あるいは花屋のアレンジメントと同じで、誰に当るかで差が出てしまうので、初めてでも遠慮することなく店長にお願いするのが賢明かと思います。何でもそうですが、肉であっても、その物語性を説明してくれると価値、旨さも増すものです。

 ある時、面倒だと思って、始めの注文時に、まずグラスビール、次は赤ワインをボトルでと同時に頼んだら、最初にワインをもってこられたことがあった。唖然として、注意すると、「なぜイケナイカ?」という顔をする位のレベルで、せっかく良い店なのだから、バイトといえども従業員教育にもう少し気を遣った方が良いのではないか、と改めて思ったものだ。

 この感覚は、食べ方の順番にこだわらない (一部の) 群馬県民の作法と同じではないかと呆れた。

下町といえば、所作と建て前、粋を売りにしているのではなかったの?と。

大判ロースの薄切り

大判ロースの薄切り

卵をつけて食べる

卵をつけて食べる

 さて、肝心の肉であるが、まず飛騨牛のロースの薄切り大判を食べるのがベストの選択であろうと思う。一皿にA5ランクロース肉80グラム見当が二枚付いて2000円しないのはかなりのお値打ち感があるし、これをレア加減で焼いて溶き卵につけて食べると、高級なすき焼き屋で仲居さんが焼いてくれて一口目を食べるのと同じ感覚になる。肉が大きいだけにもっと感動が大きいかもしれない。一緒に行った連れの女子大生が、すかさず、「白いご飯を下さい」と注文した時は、してやったりと、こちらも嬉しくなったものだ。但し、これは最初に食べないと感動が薄い。試しに最後にアンコールしたことがあるが、やはりホルモンの後ではこうはいかなかった。

ごちゃまぜ焼き、焼き上がり

ごちゃまぜ焼き、焼き上がり

ホルモン九条ネギ焼

ホルモン九条ネギ焼

 この店のレベルが確認出来たら、次は本番のホルモンだ。タンはやや厚切りで食べごたえがあるが、それほど個性的ではない。お奨めは「ホルモンごちゃまぜ焼き」だ。シマチョウ、マルチョウ、テッチャン、ミノ、ハチノス、ハラミなどをごちゃまぜにして自慢の味噌だれに付け込んであるモノを焼いてくれる。モノによって焼き時間に差があるので、注意深く焼き分けて、焼き上がると端に置いて薦めてくれる。これはまさしく京都で食べるホルモンそのものである。京都は全般に繊細な料理の仕方を得意とするが、一方でホルモンの食べ方は大雑把で豪快である。京風では付け込む濃厚なタレが店の勝負らしいが、塩コショウで味付けし九条ネギをたっぷり乗せたホルモンネギ焼もまた美味い。後はイチボ、ハラミ、トモサンカク、ザブトンなど皆美味いが、一皿のボリュームもそこそこあるので一度の訪問では到底全部は食べきれない。従って、遠方にも関わらず、つい何度も通うことになるのである。メニューにある飛騨牛の土鍋ご飯も美味そうだが、残念ながらそこまで到達したことはない。
 食後のハーブティも本格的だし、デザートのプリンもアイスクリームも良かった。

ハーブティ

ハーブティ

老人には美少女が良く似合うのだよ

老人には美少女が良く似合うのだよ

 焼肉屋としてもかなり上級な店といえよう。元祖、青山の第一神宮のような高級店志向ではなく、かといって昔からありがちな乱雑な構えでもなく、また叙々苑のような一定の規格にはまったチェーン店感も無く、個性的で客とも一体感があり、コスパも良い。運よく「良い係りさん」に当たれば、かなり満足度の高いお店である。

 オーナーが時々巡回しては、大声で店員に檄を飛ばしていて、こっちが驚いてビビることがあるが、その教育熱心さをホールのアルバイト店員にも及ぼして欲しいと思うのは小生だけではあるまい。

 ともあれ、久々のホルモン、焼き肉店のヒットであることは間違いない。

 

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