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グルマンライフ

紀尾井町「オー・プロヴァンソ-」ー夏のスペッシャリテメニュ

職場の近くにあって、とても使い勝手のいいビストロ「オ―・プロヴァンソー」から夏の特別コースの案内が来たので、夏の一夜、友人を誘って出かけてみた。

普段お気に入りの丸テーブルの席が空いていなくて、久しぶりにビストロの証でもある壁一列のベンチシートに座った。女性同伴ならともかく、男性とでは横並びではないほうが落ち着いて話ができるというものだ。

オー・プロヴァンソーのオーナーシェフ中野寿雄氏は、普段は客の我儘な注文にも融通無碍に気楽に応えてくれるが、年に何回かは、例えば、春はアスパラ、秋はキノコ、クリスマスはそれようにと季節ごとにシェフの力量を誇示するかのようなスペッシャリテのコースを提供する。それらは小生のブログ「グルマンライフ」の常連にもなっているが、彼の並々ならぬ料理人としての矜持を示すものとなっていて、小生は、期待を裏切られたことは一度もない。

さて今年の夏のメニュであるが、食材は、海のものは、例年の鮑主体ではなく車エビ、サザエに鱧(はも)、鯒(こち)、穴子が加わり、いくつかの夏野菜にサマートリュフ、ジロール茸、セープ茸とはしりのキノコに、フォアグラとシェフこだわりのスッポンを加えた豪華揃い踏みであった。




有名な料理人はよく、‘素材が良ければ、その味を引き出すだけで余分なことはしない方が良い‘とか言うが、小生は、素材はもちろん良くなければだめだが、それにいかに手を加えて、次元の違う美味さを表現するかがプロの料理というものではないか、と思う。
それはフレンチ、イタリアンに限らず和食、鮨においても同じだと思う。
その意味において、オー・プロヴァンソ―中野シェフはテロワールを生かして巧みに料理するアルチストとして超一流の料理人であると思う。

プロヴァンソーからの季節のスペッシャリテの案内は、小生には今や季節の風物詩のような愉しみになっているのだが、おそらく多くの常連も同じではないかと思う。

一度訪ねたことのある旅館やレストラン・料理店から、同じような再訪を誘う案内を貰うことは決して珍しいことではなく、その多くは営業本位の広告にすぎないものだが、プロヴァンソーのものは、シェフとスタッフが、「▲▲の季節になりましよ、美味いものを作りますから食べに来て下さい」との声が聞こえて来るかのようであり、つい、いそいそと喜んで出かけてしまうのである。

レストラン・料理店と客の関係性、付き合い方、距離感の取り方は意外と難しいものである。旨いから、安いから、便利だからというだけの関係であれば、ホンのちょっとした違和感で行かなくなってしまうし、近づき過ぎれば僅かな感情の気まずさで疎遠になってしまうこともある。
所詮、店と客の関係ではあるが、デパートやコンビニで買い物をするのとはどこか根本的に違うような気がする。
おそらく、そこには金銭の授受を超えた人と人の関係性が関与するからではないだろうか。客の方はお店に対して、主人の料理人としての力量と彼の経歴とポリシー、人間性に尊敬の念を持ち、店の方は客に、ただ金を払ってくれる人以上の存在性を認め敬意を払う、そんな思いが共有出来て、うまく距離感が持てれば、「俺の贔屓の・・」と自信を持って人を連れて行ける店が持てるのではないかと思う。

小生は、自分にとってかけがいのない行きつけのレストラン・料理屋や常宿を持つことは、伴侶を見つけるのと同じように、人生で最も大事なことの一つであると信じて疑わないが、ただその決定的な違いは、諸兄も良く認識されているように、伴侶はそうそう簡単には駄目出しが出来ないところである。

「料理マスターズ」について

 

農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」というものをご存じだろうか。
その制度の趣旨に賛成し、支援する半民営団体である「料理マスターズクラブ」が『料理マスターズガイド』なる本を年初に出版した。先日そのクラブで推薦人をしている友人からその本を貰い、興味深かったので紹介しようと思う。
料理マスターズの設立趣旨は、日本の第一次産業の活性化に貢献している料理人を国が表彰することで、日本の食を支えるシステムを強化し、食と消費を繋いで地方の活性化を目標とする。同時に第一次産業だけではなく、観光産業をはじめとした関連産業とも連動して、日本のソフトパワーの発揮にも有益な効果を及ぼすことを期待する、ものとなっている。(ガイドブックの巻頭より)

料理人を国家が顕彰するものとしてはフランスのMOF(国家最優秀職人賞)が有名であり、ポールボキューズ、ジョエルロブションら多数の世界的料理人が受賞している。
しかし、実はMOFは料理以外にも宝飾、刺繍など工芸品、ガーデニング等180種類もの生活に密着した分野の職人が対象になっている。それをArt de Vivre生活芸術と呼び、日々の生活の営みの中にも芸術性を認めようとする、いかにもフランスのお国柄を物語るものとなっている。

日本では、織物、陶磁器、漆器、木工品などの伝統工芸の分野では、優れた職人に経産省があたえる「伝統工芸士」という国家資格があるが、料理の世界は対象になっていない。
「現代の名工」というものもあるが、これは厚労省が設けた卓越した技能者表彰制度で、金属加工・組み立てなどの機械工、洋服の仕立て職人、大工など日本の伝統工芸ではない分野の技術者が対象になっているようだが、こちらは料理人も対象になり中華「四川飯店」の陳建民、日本料理「みちば」の道場六三郎、「菊の井」の村田吉弘、鮨「次郎」の小野二郎、フレンチ「オテル・ド・ミクニ」の三国清三、パティシエ「オーボンビュータン」の河田勝彦などが貰っている。
さらに卓越した技術を持ち、その分野に大きく貢献した人を、文科省が顕彰する無形重要文化財保持者(人間国宝)があるが、料理人は対象にならないのか今までに受賞者はいないようである。

料理人マスターの制度は、前期趣旨に5年以上貢献した料理人を対象にブロンズ賞を、引き続きさらに5年の功績が認められた人にシルバー賞、また更に5年位以上の功績があるとゴールド賞が与えられる仕組みになっている。2010年の第1回から2015年代6回までにブロンズ賞は44名が受賞し、昨年初めてシルバー賞4名が発表された。受賞者は全国にほぼ均等に分散されており、ミシュランのように関東、関西に限られていないところは地方の第一次産業振興という趣旨に沿ったものでもあるだろう。

しかし選者の審査委員はいずれも名の知れたいわゆるグルメ関係者ばかりであり、選ばれた料理人も殆どが既に全国的に名を知られた名料理人ばかりである。
従って受賞者は料理店のオーナーシェフであるから、受賞による利益相反は決して小さくはないであろうし、ましてやこれは半ば公的な組織によるものであるから、審査の選考過程のいきさつは、少しは透明性があった方が良いのではないかと思う。少なくとも誰が誰を推薦したか位は明らかにしても良いのではないかと思う。

第1回シルバー賞は、大阪「カハラ」の森義文しと長野の「職人館」の北沢正和氏他3名であった。

職人館は、小生の立科の山荘に近いこともあり、ここでも既に紹介(グルマンライフ2012.11.22)しているが、北沢氏は長野県佐久市望月の春日温泉の里山で、地産地消を永年実行し、地元の農業振興に貢献し、地場の野菜を全国区に育て上げた。元役場の職員の脱サラ組であるが、料理はどこで習ったかは知らぬが、多くのグルメ本でも紹介される腕前であるし、特に蕎麦は秀逸である。

カハラの森氏は、雑誌「四季の味」初期の執筆の常連で、編集長の森須滋郎に可愛がれ40年以上も前から全国で名が知られ、予約の取れないことで有名であったが、実際に会ってみると気さくではあるが、漆器も手作りするような器用な趣味人で、独特の審美眼の持ち主であった。当時から随分落ち着いた風格があったが、現在もまだ現役のところを見ると、随分若い時分から名をなしていたことになる。

料理マスターガイドは、お店ではなく料理人が主役で、料理人を紹介するものである。同時に料理人と付き合いのある農家や漁師、食品加工業者や仲買人が一緒に紹介されている。そして彼の推薦する料理店が3軒ほど紹介されており、読み物としても退屈することがなく一気に読んでしまったほどである。

さて今後の展開であるが、昨年は初めてシルバー賞を5名が受賞した。
森、北澤両氏は第1回ブロンズ賞を受賞しているが他の3名が受賞しているかどうかは定かではないが、もしそうであるならば、それは単なる5年という経年による繰り上げなのかどうか選考基準や選考方法が明確化された方が良いのではないかと思う。
まさに現代は、情報公開が求められる時代であり、「忖度」があるのではないかとの誤解を招くのは今後の発展にとって得策ではないと思うからである。

『エルバダナカヒガシ』に行ってみてー京都の料理人について思ったこと

昨年の一月にイタリアン『エルバダナカヒガシ』が西麻布に開店して話題になった。
エルバとはイタリア語で草という意味なので、ピンと来る人も少なくないと思う。
そう、そこは京都銀閣寺そばの『草喰なかひがし』の中東久雄氏の子息、中東俊文氏が開いたお店である。
小生も野次馬根性で、しばらく前に行ってみて、京都の料理人について思うところがあった。

料理人は、それも京都ともなると100年以上も続くような老舗料亭の世襲の何代目とかいう「エスタブリッシュメント・伝統派」料理人か、有名料亭で修行をしてそれなりの割烹料理屋か板前割烹の店を構える「インディーズ独立派」料理人かに、大きく二通りであろう。もっとも後者も既に世襲が始まってきているのでその区別は歴然とはしないのではあるが。
老舗料亭で今なお盛業中の代表的なものは「瓢亭」「」「和久傳」「菊の井」「平八茶屋」などがあり、「吉兆」、「美山荘」もこのジャンルに入るのだろうか。
後者では『たん熊」「浜作」「千花」「川上」「丸山」、「さかもと」などや、それに昨今話題の「未在」もこれに入るのではないか。

「エルバダナカヒガシ」のルーツである『中東』は初代が、京都のはずれの花背の里で、「大悲山峰定寺」再興の際、宿坊を営んだのが始まりで、3代目の中東吉次氏の代になって料理旅館『摘み草料理・美山荘』と改称し料理人の世界に入り、食通で名高くかつ鋭い美意識で知られた立原正秋や白州正子に気に入られ世に出ることになった。
現在は,長男の中東久人氏が4代目を継ぎ(早世され、現在はその子息が5代目)、二男の中東久雄氏は銀閣寺近くで、『草喰なかひがし』を開き、伝統的京料理とは一線を画した竈ご飯と野菜中心の地味な食事でミシュラン関西の2つ星にまで登りつめた。次女が、テレビで軽妙な話術で人気の美人料理研究家の大原千鶴氏である。
この輝かしい家系を背景にイタリアンレストランが登場したのであるから、注目を集めるのも当然であったのかもしれない。

さてエルバダナカヒガシの料理であるが、京野菜それも、特にこだわった地域のものを斬新な手法で供しようとする意欲的なものであったが、意欲が先に立つ余りか、少々押しつけがましくも思え、空回りしていた感は免れえなかったようにも感じた。この先幾シーズンかして俊文シェフのスタイルが完成されるならば、食べる方ももう少し肩の力を抜いてリラックスして食べられるのではないだろうか。テノワールを大事にして野菜を上手く使うセンスはさすがであり,「中東」に新しいレジェンドが加わる日も遠くないように思った。
具体的な料理の詳細は、時間が経ってしまった上に、席に献立書きの用意が無かったこともあり、正確には書けないので写真を見てイメージを膨らませて頂きたい。

始めたばかりで実力の程も定かでないうちから、名前だけで評判をとれるのは料理人の他には、おそらく歌舞伎や政治など世襲のはびこる世界くらいであり、そこでは必然的に継代による劣化が問題になってくる。
歌舞伎の世界では、芸の本質を一般人が評価するのは難しいから、どんな ボンクラやヤンチャでも何とかなってしまうのは昨今の歌舞伎界を見れば明らかであろう。
しかし、それは一般国民には実害が無いからどうでも良いが、政治の世界は実害が社会の根本に関わるから大いに困ることは、今の安倍晋三内閣を見れば明白であろう。岸信介―佐藤栄作―安倍晋太郎と続く名門血統でありながら、民主主義をまったく理解出来ず、政治権力を私物化して恥じ臆することがない安倍晋三首相は劣性遺伝の見本である。

しかし世襲が必ずしも劣化を招くとは限らない。
京料理の老舗料亭『瓢亭』や『菊の井』の現当主たちは、京料理の伝統維持と国際化にも熱心で、フランス料理やイタリヤ料理などの有名料理人との交流を進めており、そのおかげもあって、和食が世界文化遺産にもなったのであるが、中東俊文氏がイタリア料理を目指すきっかけにもなったのであろうと思う。

これら伝統派は、全員ではないだろうが、店を引き継いでいこうという使命感があり、まじめで勉強にも熱心な料理人が少なくはない。
一方独立派要理人は個性的で料理の革新もに熱心であるから世間の注目を集めやすいが、何よりも特権的富裕層に限られていた京懐石の高い敷居を下げて、一般人でもそれを食する機会を与えてくれた功績は大きい。

東京にも、多くはないが京料理の味を引き継ぐ名店がある。
新橋「京味」赤坂『菊の井』虎の門「と村」麻布十番「幸村」そして最近話題の南青山「宮坂」などである。菊の井を除けば、基本的にインディーズである。
「京味」の西健一郎氏は父親西音松氏が店こそ持たなかったが、京都の有名な料理人であったことから京都のDNAを引き継ぐが、インディーズの料理人の多くは地方(東京を含む)から京都の有名店に修行に入り、才能を開花させ独立を果たした料理人である。
彼等に共通してうかがえることは、皆ことごとく京都弁、京都なまりを使うことと、野菜は無論京野菜にこだわるが、他の食材、水でも器でも何でも京都が一番と信奉していることである。それはおそらく京都育ちの料理人であることのプライドから来るのであろうが、時に度が過ぎ滑稽に思えることもある。
「未在」出身の青山「宮坂」では、赤だしの八丁味噌の種類を尋ねたら、なんと京都産との返事であった。
(小生は八丁味噌の生産地、愛知県岡崎市の出身であるから、八丁味噌は「早川のカクキュー」と「太田のまるや」の2ブランドしかないことを熟知しているから、そのどちらのものかと尋ねたのであるが、、)

京料理といえども、「京都ブランド」に頼り過ぎていては底が知れるのである。

キャリアより自分の心情で行こうと決めたロマンあふれる超一級のフレンチー駒形の「ナベノイズム」


グルメガイド―東京最高のレストラン2017

グルメガイド
東京最高のレストラン2017

ロケーション

ロケーション


かのタイユバンロビションで総料理長を務めた渡辺雄一郎氏が昨年の7月に浅草駒形の隅田川沿いにレストランを開いた。「ナベノイズムNabeno-Ism]という。
プロに近いグルメの間では既に最も高い評価を得ていたから、一度は行ってみたいと思っていたが、春先に機会がありランチに行ってみた。

彼は大坂あべの辻調理師専門学校から同行のフランス校に進学、フランスで研修後ポール・ボキューズ・トーキョーに勤務、1994年シャトーレストラン「タイユバンヴァン・ロブション」のオープンに関わり1996年にスーシェフ、2004年にエグゼクティブシェフに就任。2007年から20015年まで9年連続でミシュラン東京で三ツ星を獲得した。2015年ロブション退職し、2016年にナベノイズムを開業というキャリアである。
以上の輝かしいキャリアからは銀座、青山、麻布辺りでの開業が相応しいように思えるが、なぜか下町駒形の隅田川ベリを選んだ。
彼に直接聞いたところでは、それは幼少期の思い出がこの近辺に凝縮しているためだという。子供の頃に当時住んでいた川向うから母親と遊びに来たのが吾妻橋を渡ったこの辺りであったので、ここで店を構えたいと願ったというのである。
それは彼の郷愁というロマンティシズムでもあろうが。同時にフレンチにうるさい客を都心から外れたこの地まで引っ張ってみせるぞ、という自信というか、気概が見えるのである。

当日のメニュ

当日のメニュ

アンダープレートは渡辺家の家紋の石皿

アンダープレートは渡辺家の家紋の石皿

アミューズはトマトのガスパッチョなど

アミューズはトマトのガスパッチョなど

蕎麦がきと塩雲丹、昆布のジュレ

蕎麦がきと塩雲丹、昆布のジュレ

江戸伝統野菜とフランス伝統食材の融合の皿

江戸伝統野菜と
フランス伝統食材の融合の皿

ラングスティーヌのココット仕立て

ラングスティーヌのココット仕立て

牛フィレ肉のグリエ、トリュフのコンソメかけ

牛フィレ肉のグリエ、
トリュフのコンソメかけ

デザート、冷凍ミカンとホワイトチョコレートムース、ラム酒のソース

デザート、冷凍ミカンとホワイトチョコレートムース、ラム酒のソース

クリームブリュレとソルベ

クリームブリュレとソルベ

駒形イメージのプチガトー

駒形イメージのプチガトー


それにしても郷土愛に溢れた地産地消のメニューである。
「両国江戸蕎麦ほそ川」のそば粉、[奥井海生堂]の昆布を始め、江戸伝統野菜をことさらのように使うかと思えば、全国の一級の食材を渉猟して随所に使いこなしている。
しかし、器も盛り付けも最近のフレンチのようにアートのような完成度を狙うのではなく、どちらかといえば江戸料理のように武骨で野暮ったい風を装っている新しい形のフレンチである。

テラスからの眺望

テラスからの眺望

スカイツリーとアサヒビール本社ビル

スカイツリーとアサヒビール本社ビル


場所はまさしく隅田川ベリでテラスの目の前がアサヒビールの本社ビルと、スカイツリーが望める好立地である。夏にテラスで食べれば、京都の鴨川べりの川床料理を彷彿とさせるであろうが、違うのは仕出し弁当のような新鮮味のない京料理ではなく、野心的な一流のフランス料理なのである。
隅田川の花火の日は、テラスのテーブル予約はさぞや激しい獲得競争が展開されるのは想像に難くはないが、今年は一体予約開始から何分で完売であったか聞いてみたいものである。

そこでは常連の上客が忖度されるのだろうか。

個人的には忖度されてしかるべきものと思う。初めて来る客と、何度も来ている客が平等であるはずはない。政治とは違うのである。
選挙権だって、しばらく住んで与えられるのだから同じことだ。
そう思うから、小生はしばらく通って、来年の花火の日にはエントリーしてみようと思う。
今年は梅雨の合間の晴れた日を狙いたいところだが、どのような手筈にすれば、それがうまく成功するのか、迷うところではある。

昨今の東京レストラン事情-南青山のL`AS&CORKについて

雑誌GOETHEが年に一回、現代の名だたる3人の食通がこの一年間に開拓し、太鼓判を押した店をジャンルを問わず推薦する「悶絶レストラン」特集を組む。
原則的に各人にとっては新規に開拓した店であるから、既に巷間、誰しもが認める有名店は含まれず、情報が常に新鮮であることから、小生に限らず、この企画のフアンも多いのではないかと思われる。
3人とは、「売れる本が良い本である」を社是にする幻冬舎社長のT.K氏、作詞家でおニャン子からAKBまでJKグループプロジューサーのK.A.氏、かつてはテレビ番組「料理の鉄人」を、今は「東京会議」を制作し、RED u35では新人料理人を発掘し、また老舗料亭からフレンチレストランまでをプロジュースするK.K.氏の3名である。全員とも、もう名を成してから既に長いが、その勢いは衰えを知らず、今が盛りの方ばかりであるから、当然あらゆる遊びには貪欲で精通し、食の探索も旺盛である。
3人の会話を読んでいると、端々の自慢話は、年寄りには少々食傷気味にもなるが、選んだ店は、さすがにというか、老いてもそそられる店ばかりである。それに互いが、自分の沽券に掛けて推薦しているから、大きな外れのあろうはずがないと思うのである。
が、しかし、中には行きたいと思っても、紹介制とあって、有名人と縁のない、名もない一般人では行けないような店がいくつも出てくる。無論彼らに行けない店など、元より存在しないのだから、読者がどう思うかは関係のない話なのである。
「有名店ではないとは言え、これだけの食材を使って、ここまで丁寧な仕事をし、この店構え、サービスでは安すぎると思う」と言って紹介しているのだが、いざお店の案内を見ると料理3万~では、バブルもはじけて、平成も30年になろうとする、慢性デフレの昨今の一般人の感覚とは程遠いのである。要するにゲーテイスト2017は、結果として、美味かろう、高かろうが基準になってしまっているキライがあるのである。

バブル崩壊以降、高級店の顧客単価は半分以下になったが、またぞろ超高級店が復活し始めた気配がある。旅館も、「星のリゾート」に続いて「ひらまつ&リゾーツ」が超高級オーベルジュの展開を始めて、全国的に再び高級志向の波がみられるようである。
それが時代をリードするものになるかどうかは、すでに縮小期と言われる老年期の小生にはニュートラルな判断は出来ないので、しばらく様子を見ないと何とも言えないだろうと言うしかないのである。

現在は、若い人の内向き志向というか、堅実な経済感覚で、一般に外食の顧客単価は下がっており、それにあわせて、極めてリーズナブルなコスパに優れたお店が出てきている。
料理人は才能豊かで、かつ勉強家で、決して料理の質には妥協せず、目一杯の料理を提供するが、料金はいろいろ工夫をして、ギリギリまで下げている、そういう心意気というかマーケッティングに長けたお店が増えてきた。

その中の一つがL`AS & CORKである。
既にL`ASのランチとデリについては書いたが(グルマンライフ2016.11.2,2016.11.9)、その後CORKもL`ASもディナーに行って、感心したのでまた取り上げようと思う。
L`ASとCORKは、今最も勢いのある街、南青山にあり、二つは系列店で、というかお店は背中合わせで、厨房を共有しているように建っている。通りに面したのがCORKで、奥に隠れているのがL`ASである。L`ASはテーブル席のシンプルなデザインのフレンチレストランで、CORKはカウンター席のみのワインバーである。食事は別のメニューであるが共に、一種類のコースのみである。CORKはワインがペアで付いている。
L`ASの12月のメニューをご紹介します。

1)ミモレットチーズの一口コロッケ

2)フォアグラのクリスピーサンド‘ストロベリー味

3)蕪のサラダ、レモンと白ワインのジュレのソース

4)イタリアのスープ[タルディ―ボ、うずら豆、ビーツ]

5)白子とキャベツのパイ包み焼き

6)エゾシカのロースト、タルディーボのソテー、鹿のラグーソース

7)ミニトマトのコンポート

8)焼き芋のモンブラン

CORKのワインと料理のマリア―ジュは

日本では、おそらく食べ手の文化が成熟していないからか、あるいは伝統的日本料理の文化からか、余りアラカルトメニューで食べる習慣が発達していないようだ。一流店に行けばいくほど、あれが食いたい、これも食いたいとは中々言わないで(言えないで)、店が用意したもの、あるいは店が薦めるものに容易に誘導されるのである。
この習慣は、店側には全く好都合で経営上は極めて良い環境になっている。コース料理一本であれば、結婚式披露宴のように材料に無駄が出ず、利益率が最も良いのだ。又貸切制というのもそうだ。料理、人数が読めて、無駄が無く利益率が高いのだ。
日本ではレストランウエディングというアイディアで大儲けしているレストランが幾つもあるらしい。
早く有名になり儲かれば良いという昨今の仏・伊料理界では贔屓、常連などという存在はあてにしない。客を大事にし、客を育てる気概が希薄なのだ。

フランス、イタリアでは、店のメニューからアラカルトを削ることはないし、原則として貸切はやらないのが普通である。今日出るかどうか分からないようなお皿の高級食材でも常に用意して、アラカルトに応えるようにしているのが、客に対する店の矜持でもあるのだ。(もっとも最近のヨーロッパ事情は知らないが、ムニュ・デギュスタシオンなんてのが主流になっているなんてことがある?)

日本はこのところ、コース料理でも、プリフィクス形式が多くなった。コース料理仕立てにして、前菜、主菜、デザートも、いくつかの種類の中から選択出来る好都合な方法だが、これなら客の側の選択権もある程度満足させられるし、用意する品数も制限されるから、店側も食材の無駄が省けて、料理人も調理法を習得し易いから、皆よいというわけだ。

LAS&KORKでは、きっちりワンメニュー設定で、時間は二部制で客を一晩で2回転させ、キャンセルにはペナルティを課して空席を減らす、テーブルクロスなどの経費を省く、カトラリー交換などの手間を無くして(同じものを使い続けるというのではなく、自分でとり出して使う)人件費を抑えるなどの工夫をして、料金設定を低くしている。
かといって料理に手抜きはなく、むしろカンテサンスに負けず革新的だと言ってよい。

写真で示したL`ASのディナーコースが5000円で、内容は3週間でそっくり変わるという。皿ごとに、見合ったワインが付くワインペアリング(5杯)も5000円と良心的である。CORKもほぼ同様の値段設定である。

しかし、すべてが画一的で、店側が主導権を持って能率的に食事が流れるように運んでいくのが気になるという向きには、ここは向かない。
極端に言えば、いろいろ言わずに店側の言うように従って食べて、時間が来れば追い出される、と取れなくもない。まるで、こちらが食べさせて頂いている気分になるという人がいるかもしれない。

いえ、これは決してホスピタリティが悪いという意味ではありません、システムの話です。従業員は皆親切、丁寧で気遣いが出来ている。

食事とは食べることだけではないと、食事に伴う時間の流れの豊かさに重きを置く人には、ここの合理性は食事の快楽性をそぐものと思え、楽しくないであろうと思う。
しかしTPOを考えて行けば、これはこれで大いに価値のある新しいレストランのスタイルであろうと思う。(かといって誰にでも真似ができるとは思いませんが)

それに何と言っても、「料理にはこだわって、客を満足させる」、ことは守られている。
もっとも、これで料理が平凡なら、ただのお徳なレストランになってしまうだろうが。

キノコ閑話―今年もキノコの季節は終わってしまった

家飯にしろ外食にしろ、キノコを食べないと秋は終わらない。
キノコ類は低カロリーで栄養、植物繊維も豊富で、香り、食感も良く、特に女性に人気の高い食物の優等生である。近年は大量栽培法の開発で価格も安くなったが、その分、季節感は無くなってしまった。椎茸、エノキ、シメジ、エリンギ、舞茸は年中スーパーマーケットに並び、今年のように野菜が高騰しても安定価格で主婦(夫)の強い味方になった。が、その分、味の方もそっけなく味気ないものになり、どれを食べても似たような代物になり果てた。

焼き椎茸(あさばの朝食で)

①焼き椎茸(あさばの朝食で)

王様椎茸のロースト(L`AS)

②王様椎茸のロースト(L`AS)

半世紀以上も前、小生が小学生だった頃の教科書には、わが国で初めて椎茸栽培を成功させた人の話が載っていた。確か、クヌギのような原木に鉈で割れ目を入れ、そこに胞子(菌)を付けた楔型の木片を打ち込む方法であったように思う。一人の山村のお百姓の熱心な研究心のお蔭で、大分の山村は豊かになったという、今で言う、地場産業創出の町興しの話であったから、おそらく社会科の教科書だったのかもしれない。
小生が、そんな話を良く覚えているのは、先生に「楔型とはどんな形か?」と質問され、答えられなかったためかもしれない。

現在では、日常食べるキノコはすべて人工栽培によるもので、それもおが屑を使った水耕栽培のようなもので太陽の光を全く浴びないで育つものだから異様に色白でビタミンDが期待できなさそうなものばかりである。
昔から香り松茸、味シメジといい、シメジは味が濃く珍重された。舞茸はもっと香りのある希少なキノコであった。なめこは大きさも不揃いで、ぬめりはもっと野性的で強烈であった。

小生の子どもの頃は、秋も深まって真っ青な秋晴れの日になると、授業を中止にして、裏山にキノコ採りに連れて行ってくれるような粋な教師が田舎にはいたものだ。
秋晴れの天気のいい日に、先生も授業なんかしてるのが嫌だったのだろうが、生徒も「さあ、今日は山に行くぞ」という言葉を固唾をのんで待っていたものだ。
落葉樹の葉が何重にも重なって落ちている林の中は、秋独特の湿気たカビのような菌類の匂いがして、顔を地面に押し付けるようにして斜面を仰いでみると、運がいいと松茸を見つけることが出来たし、切株にはなめこや舞茸が付いていた。木漏れ日の刺す林間はカサカサと足の音だけが響き、皆黙って真剣にキノコ探しをしたものだった。

松茸のフライ

③松茸のフライ

松茸のフライ(我が家風)

④松茸のフライ(我が家風)

松茸のすき焼き(我が家風)

⑤松茸のすき焼き(我が家風)

出汁で食べるすき焼き(我が家風)

⑥出汁で食べるすき焼き(我が家風)

現在でも、松茸だけは人工栽培に成功していなく、従って数桁違いに高価だが、早晩栽培に成功し、廉価になれば、独特の香りの強さがかえって料理の邪魔をして災いとなり、やがて敬遠されるようになるだろう。
エリンギも輸入品しかない頃は高価であり、その分美味いと思っていたが、国産で栽培されるようになってエノキ並みの価格になれば味も半分になってしまう。外国野菜のルッコラやズッキーニやパプリカも皆そうである。日本の農業の進取のアンテナの性能は決して悪くはないと思う。ポルチーニもやがてそうなるのであろうか?

ポルチーニ

⑦ポルチーニ

ポルチーニのインパデッラ(プリズマ)

⑧ポルチーニのインパデッラ(プリズマ)

舌平目のポワレポルチーニ添え(プロバンソー)

⑨舌平目のポワレポルチーニ添え(プロバンソー)

ポルチーニのピッツア(イル・ペンティート)

⑩ポルチーニのピッツア(イル・ペンティート)

食材は旬に先んじるとか、容易に手に入らないとか希少性が大事なのだ。
正月の数の子も、昔は悪質な仲買水産商社が買い占めて独占し、高止まりで価格調整をしたものだから、黄色いダイヤといわれるくらい高価であったが、その会社が政界疑獄絡みで摘発されると、放出され一気に安くなった。安くなると、もう数の子を珍重することもなくなり、現在では、昔は観たこともないような大きな腹のものを平気で買えるようになった。

しかしキャビアだけは相変わらず高い。今や出回っているものの殆どが外国産の養殖物であるが、チョウザメの養殖は難しく、育てるのに年単位の時間がかかるせいかもしれないが相変わらず高価である。一般に水産物の養殖物は天然ものに比べ味が落ちると言われ敬遠される。確かに鰤や鯛や車エビくらいなら、まだ小生でもその違いが分かるが、キャビアやトラ河豚となると、天然ものの記憶が定かではないから、養殖物でも感動するほど美味しく食べてしまう。

所詮味覚とは、記憶と相対するものであるし、記憶はいずれ消えていくものであるから、何であろうと食べた時に美味いと思えれば、それで良いのであって、他人が「味が分かるの、分からないの」と言うのは、とんだお節介というものだろう。そう言う本人も結局同じ穴のムジナに過ぎないのだし。

さて今年味わった貴重なキノコ体験を写真に記録して来ているので、このグルマンライフに記念として残しておこうと思う。また来年食べられるとも限らないし。

1)椎茸
焼くが一番。最近は巨大椎茸がトレンドのよう。
①②

2)松茸
今年はアジア産が不作で残念な年であった。(北朝鮮の核実験のせいか?)外国産の外れでもフライにして香りを閉じ込めて食べれば十分に美味い。
③④⑤⑥

3)ポルチーニ(仏名セップ茸) 
フレッシュポルチーニは独特の香りが強く、どんな料理でも旨いと思うが、素人には手に入らないので結局外で食べるしかないのが残念である。
⑦⑧⑨⑩

4)ジロール茸
日本の野生のシメジのようなモノか、茎が長くちょっと土臭い。

仔牛とフォアグラのパイ包みフレッシュジロール添え(プロバンソー)

仔牛とフォアグラのパイ包みフレッシュジロール添え(プロバンソー)

野生キノコ(ジロール、プルロット、花ビラ茸、カンドンチェッロ)の温前菜(プロバンソー)

野生キノコ(ジロール、プルロット、花ビラ茸、カンドンチェッロ)の温前菜(プロバンソー)

5)花びら茸
フランス産の見た目も味も上品なキノコ。

鮑と花ビラだけとパンチェッタ、鮑の肝ソース(プロバンソー)

鮑と花ビラだけとパンチェッタ、鮑の肝ソース(プロバンソー)

熟成牛肩肉と花びら茸のコンソメ煮(プロバンソー)

熟成牛肩肉と花びら茸のコンソメ煮(プロバンソー)

6)白トリュフ
黒トリュフは栽培出来るらしく、白との格差が広がったが、やはり香りは格段に違う。

アルバ産トリュフ(プリズマ)

アルバ産トリュフ(プリズマ)

巨大トリュフ(プリズマ)

巨大トリュフ(プリズマ)

白トリュフのタリオリーニ(プリズマ)

白トリュフのタリオリーニ(プリズマ)

キャラメル風味のクレスペッレと白トリュフ(プリズマ)

キャラメル風味のクレスペッレと白トリュフ(プリズマ)

7)大黒シメジ
穴場的なキノコ。その昔、「京味」の西氏は松茸より旨いよと言って焼いてくれたが、本当にそうかと思う程旨い。ポルチーニに近い食感。
最近は、デパ地下、時には近所のスーパーでも手に入るようになったので、見つけると家では炊き込みご飯や鍋物、すき焼きに使う。シメジと思うと高いが、松茸と思えば相当値打ち。近云ブレイクしそうな予感がする。

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯(我が家風)

大黒シメジと銀杏の炊き込みご飯(我が家風)

大黒シメジ(伊勢丹地下)

大黒シメジ(伊勢丹地下)

L`AS-東京フレンチのヌーベルキュジンヌ、揺るぎない視座を持つ兼子大輔シェフの店

前回のグルマンライフでお約束した通りL`ASに行ってきた。
土・日・祝日のみランチがあり、ディナーと同じメニュと言うのでクリニックのスタッフをお供に土曜ランチに行ってきた。
場所は、外苑西通りの南青山3丁目交差点を青山墓地下に向かって一つ目の信号、スキーのジローの角を右折して、坂を上りきった辺りを左に入ってすぐの今風な建物の1階にあった。通りに面してCORKという同じ系列のビストロ(ワインバー?)があり、その奥に目指すL`ASはあった。
ランチは12時スタートで、私たちが5分位前に到着すると、40席の半数位は埋まっており、間もなく満席になってしまった。オープンキッチンの飾り気のないカジュアルなインテリアで、紙のテーブルクロスすらなく、テーブルには銘々の引き出しが付いており、その中に本日のメニュとカトラリーが入っており、自分で適当にとり出して使うというスタイルになっていた。
これこそがオーナーシェフ兼子大輔氏の言う「美味しい料理と美味しいワインに特化した」店づくりかと思わせるものであった。
無駄な経費は使わないという考えの割にはギャルソンが多人数いて意外な感じがまずしたが、おそらく何か戦略があってのことだろうと思われた。
兼子氏と思しき人がカウンターの端に背中を向けて立って、客と料理の進行状況の指揮を執っているように見えた。思わずかつて東品川にあった「アロマクラシコ」を思い出した。まるで背中に眼があるかのように店のすべての状況を把握し、遅滞なく料理の進行を差配していた原田慎次シェフの剣客を思わせる緊張感あふれた姿を思い出したのである。それに比べれば、兼子シェフは肩の力が抜けたリラックスした雰囲気であり、それはそれで客に、変な緊張感を与えず心地の良いものではあった。ただキッチンの中のコックは3名くらいで、ソムリエ2名とギャルソンが10名程では、やはり熟練度のバランスが悪いのか、あるいは40席を間断なく仕切るに無理があるのか、シェフの意に反して料理のサービスのタイミングにバラツキがあったことも述べておかねばならないだろう。

料理は、シェフのラ・ベガス、コートドール、サンドラスなどオーセンティックな修行履歴から想像されるものとはかけ離れた自由な新しい感覚の料理で目を見張るものであった。既に多くのプロやネットの自称グルメ批評家たちの評価のつとに高いところであるから多言は要しないが、初めての訪問の小生には一種のカルチャーショックに近い体験であった。
料理の発想は極めて独創的で、こだわりの強い食材を使いこなし、まとめあげる力量は非凡な才能を十分にうかがわせるものであったが、何と言っても、3週でメニュが代わる9、10皿コースを、これだけの品質を保ちつつ5000円で提供してしまうサービス力は驚嘆に値するものであった。
この価格破壊は、おそらくは、同業他者には頭の痛い存在であろうかと推察できる。

料理のセンスはカンテサンスの岸田周三シェフに共通するものを感じさせるが、サービスの発想は、カーサヴィニタリアの原田慎次シェフに近いように思われた。兼子大輔シェフは傑出した二人の料理人のセンス、才能を併せ持った、現在の東京では極めて稀有なシェフであることに間違いないだろう。

英国の「FOUR MAGAZINE」が主催する料理人コンテストで最高賞RAISING STAR AWARDや小山薫堂がプロデュースしているRED (RYOURININ EMARGING DREAM) UNDER 35でゴールドエッグ賞(RED賞ファイナリスト6名)を受賞しているのも十分うなづけるものであった。

話はそれるが、今回の経験で小山薫堂に対する小生の評価も変わり、テレビ番組「東京会議」を見直そうかと思うようにさえなった。

唯一問題があるとすれば、余りのCPの良さから、予約が取り難いということであろう。
それと、ディナータイムに行かなければ分からないが、果たして客層がどうかということである。小生のようなシニア世代は一般に、女子会や不作法な若者にわが物顔されている店は馴染めないからである。

さて当日の料理を紹介しよう。


<自家製モッツァレラチーズ>
チーズに造詣は全くないから、特に感想はない。


<フォアグラのクリスピーサンド‘キャラメル・オレンジ風味>
これは定番の人気メニュのようだが、ハーゲンダッツのクリスピーに見立てて紙の袋に入って遊び心を効かせた一品であった。サンドするキャラメルの風味はその都度変化するらしいが、フォアグラはクラシックなパテ仕立ての様でもあり、旬香亭のお気に入りであったフォアグラの西京漬けのような口当たりでもあった。


<柿とアンディーブのサラダ>
このサラダの感触は、まさに1週前に味わった「RECIPIE AND MARKET」サラダの原点を彷彿させるものであった。
久しぶりにアンディーブのパリの味を思い出した。


<福田農園の王様しいたけのロースト、ラルド(豚の背脂を香辛料と塩漬けしたもの)を添えて>
10センチ以上ある肉厚の椎茸を焼いたものにラルドが添えられ、バルサミコ風味のソースがかかっていた。キノコは焼き立てが命であるから、冷めかけていては風味も口当たりも物足りなく、かつ少々焼き過ぎで、これは唯一残念なお皿であった。日本人のキノコの味覚は目の前で焼いて食べるに限るのである。ちなみに椎茸は裏返して焼き、襞にジワっと汁が出たら即食べるのが一番旨いとは、「あさば」の教えるところである。


<秋刀魚のポワレと2種の人参の温製サラダ仕立て、ミモレットチーズのクルスティアン>
秋刀魚の腹に人参のピュレを挟んでカリカリに焼いて、その上にスライスした人参の焼いたものが載り、ミモレットチーズのフライドチップスと細切り鰹節風におろしたものがかけてあった。ソースは秋刀魚のハラワタを、鮑の肝のソースのように仕立てたものでベストマッチであった。


<オマールエビと豚足を詰めたウズラのロースト、赤ワインとオマールエビのソース>
ウズラのローストの概念を一変するお皿。ウズラのお腹ににオマールエビと豚足を詰め込んでローストするという大胆な発想。不思議な程柔らかい歯ごたえ。オマールのビスク風なソースで。


<グランベリーのグラニテ>
高山に自生するコケモモの味によく似ていて、思わず物悲しい懐かしさが込み上げてきた。
コケモモは八ヶ岳コロボックルヒュッテの手塚宗求氏の哀しい山の物語にしばしば登場する八ヶ岳の味であるからである。


<ビターな思い出―カカオのアイスクリームレモン風味のソース>
濃厚なチョコレートのアイスクリームに柑橘系風味のチョコレートソースがよく合っていた。とんがりコーンもチョコレートで出来ており童心に帰る遊び心が見られたが、チョコはかなりビターで大人だけの味わいであった。
ビターな思い出とは何のことだろうか?

最後に、オリジナルハーブティがポットで出されたが、空になったポットをギャルソンはすぐさま下げて行ったので、お湯を足して持ってくるかと思いきや、そのまま下げたままであり、その手際のよい振る舞いは意味不明で終わったのである。

L`ASはオーナーシェフも従業員も皆若い。厨房にいるコックも二人のソムリエも驚くほど若いのである。おまけに客層も皆若い人である。なぜか、自分だけが場違いで少々気後れしたのも事実であった。

最後に耳寄りな情報を一つ。L`ASのシェフソムリエは田辺公一氏で、リッツカールトン東京に在職中は数々のソムリエコンクールで入賞した実力派で、L`ASでは兼子氏の片腕としてCORKを仕切っているようである。CORKではワインに合わせて一皿の料理が出されるという。
小生は次は夜のCORKを尋ねてみようと思いつつ午後の仕事に戻ったのである。

イートイン、テイクアウトの『RECIPIE & MARKET』ー簡便だが手抜きのない“品質へのこだわり

昨今のデパートの地下食では、有名食材店、料理店がテイクアウト商品を販売している隣でカウンター席を設けて、あるいはコーナーを作って、食事をさせるところが目立つようになってきた。それをイートインと言うらしいが、鮨であったり、丼物であったり、フレンチ、イタリアンであったりと多種多様だが、伊勢丹の地下ではキャビアにシャンパンというような豪華なものまである。
デパ地下に買い出しに行って、小腹がすいた時に、デパートの食堂とは違う個性的な有名店の逸品を食せるのは嬉しいことである。
小生は、残念ながら、未だイートインの経験はない。大した理由はないが、人に見られながら食べるのは何となく気が引けるのと、食べたければ、何もこんな狭苦しい所で食べなくとも本店で食べればよいという気になってしまうからである。
おそらく一度体験すればどうってことのないことであろうが、未だそのようなチャンスが無いのである。

蒸し鶏とブリ

蒸し鶏とブリ

 

先日、六本木のミッドタウンに出かけた際に、留守番用の昼ご飯を買って帰ろうと、B1にある[RECIPIE & MARKET]に寄ってみた。何処かの雑誌に載っていたのをうろ覚えではあったが思い出し、探して行ってみたのである。
表に面してガラスのショウケースが並んでおり、中には何種類もの料理がガラス瓶に入ったものとプラスチックのパッケージのものと、2種類づつ並んでいた。瓶の方がイートイン用で、プラスチックの方がテイクアウト用とのことであった。イートインの場合は瓶をレジで買うと、そこでお皿に移してくれ、それを持ってテーブルに行くという、ハンバーガー屋と同じスタイルのように見えた。
小生は、「ぶりのマリネのサラダ、グリーンオリーブマヨネーズ」と「蒸し鶏と温泉卵、パルメザンチーズのシーザーサラダ」のテイクアウトを買った。

ブリのサラダ

ブリのサラダ

蒸し鶏のシーザーサラダ

蒸し鶏のシーザーサラダ

さて家に帰って、開けてみるとまず仕事の丁寧さに驚いた。野菜と肉魚は細やかにラップで区切られており、ソースはキャップ付きのボトルに入れられ、クルトンはビニール袋に入っていた。野菜はパリパリの新鮮そのもので質が高く、ブリの薄造りは、きちんと鮮度を保っており、蒸し鶏もぱさぱさ感は微塵もなく、ソースの旨さと言い、まるで一級のレストランで出されたような味わいのお皿になった。

ワインを一杯飲んで、ずいぶん贅沢な気分の一人ランチになった。

値段はいずれも700円台で、半額程度とはいえコンビニのサラダは一体何なんだろうか、あるいは高い一流ホテルの有名シェフのデリカテッセンとは何かと考えてしまった。
コンビニサラダのおよそ5~10倍の価値はあるだろうし、有名シェフの総菜より、ブランドに驕りが無いぶん神経が細やかで出来がいいのである。

これだけのものをこの価格で提供する料理人はどんな人物か興味が湧いたのでネットで調べてみた。
小生は行ったことはないが青山のL`ASというフレンチンレストランのオーナーシェフ兼子大輔氏がオーナーで“テイクアウトでも、気持ちがあればこれだけのものが出来るぞ”という意気込みで始めたらしい。
履歴を見ると、大阪のラ・ベガスと三田のコート・ドールで修業して渡仏とあるから鉄壁のキャリアである。フランスでは何処のレストランに居たかは書いてなかったが、それ相応のシェフの所で学んできたに違いないだろう。

おそらくL`ASはそれなりのお店であろうと想像でき、食べる前から先入観でモノ言うは私の主義主張に反するが、まずは外れてはいまいと思わせ、久々に新規開拓意欲が湧いて来た。

近日中には訪れるつもりであるから、その結果は又ご報告するので、乞うご期待です。

オー・プロヴァンソ―秋のお祝いのスペッシャリテ

私のクリニックのスタッフが寿退社することになったので、近くの「オー・プロヴァンソー」にお祝いのスペッシャリテを頼んでおいて送別の食事会をした。
メートル・ドテルの千葉氏によれば、当日の料理はすべて現在のメニュには載っていない中野シェフが今日のために用意した特別料理ばかりということであり、(額面通り信じて)私達は恐縮し姿勢を正して有難く頂戴したのであった。
実のところは、私もそれ程頻繁にプロヴァンソーを訪れている訳ではないので、通常のメニュでも十分に新鮮だったのではありますが、、、。
お気遣い申し訳ないことでした。
以下に示す当日のメニュは、後日、千葉氏からメールで送られて来たものである。(お手数おかけしました)

アミューズはトウモロコシの冷製スープ、カボチャのエクレア,蟹クリームコロッケ

アミューズはトウモロコシの冷製スープ
カボチャのエクレア,蟹クリームコロッケ

前菜、帆立貝のポワレとシャインマスカット、ブルーチーズのクラングル(クッキ-)とマスカットのジュレ

前菜、帆立貝のポワレとシャインマスカット
ブルーチーズのクラングル(クッキ-)とマスカットのジュレ

鮑 花びら茸とパンチェッタ 鮑の肝ソース

鮑 花びら茸とパンチェッタ
鮑の肝ソース

スカンピ(赤座海老)のカダフィ巻 香草バターソース

スカンピ(赤座海老)のカダフィ巻 香草バターソース

仔牛とフォアグラのパイ包み焼き フレッシュジロール茸添え トリュフソース

仔牛とフォアグラのパイ包み焼き
フレッシュジロール茸添え トリュフソース

シェフからのお祝いプレート

シェフからのお祝いプレート

デザートはモンブラン

デザートはモンブラン

さて、感謝を込めて感想を少々。
①アミューズはヴィッシーソワーズのジャガイモがトウモロコシに。なるほど、我が国ほどトウモロコシの美味い国はないのだから、試してガッテンと思わせた一品。

②半生に火入れしたホタテと、今が旬のマスカットを合わせた口当たりも爽やかな美しい、見てよし、食べてよしの一皿。

③蒸しアワビはボイルした後、軽くソテーしてあり、鮨屋の蒸しアワビとは一味違い、やはり鮑にはバターソースがよく合うと再認識した一品。花びら茸が、見た目も鮑のエンべラようで食感もちょっと似ていて不思議な感じ。上に乗っていたパンチェッタの役割はよく分からなかった。
④ラングスティーヌ(赤座海老)をカダフィという細いパスタを衣がわりにして揚げたエビフライ。
海老の香りを閉じ込めるのはやはりフライが一番であるというのが、小生の持論。伊勢海老も一番旨い食べ方は、やはり海老フライであると教えてくれたのは旬香亭の斎藤氏だったなあ。
ついでながら松茸もフライで食べるのが一番旨いと思う。つまり香りの強い食材は、フライにすると香りが立って旨いのだ。(天麩羅よりも)松茸のフライは今はもうないが、赤坂の「京料理・高橋」で教わった。

なぜか、このお皿はシェフが自ら運んでくれたのは、小生が愛知生れと知ってのことかどうか。「エビフライです」と言って、少しニヤット微笑んだような、気のせいかもしれないが。「海老フリャー」とは言わなかったけど。

⑤最後は、フォアグラ、仔牛、パイの三重層にトリュフのソースが良くマッチしたお皿。やや定番風ではあったが、フレッシュジロール茸が気前よく添えてあり、心意気を感じさせるメインディッシュではあった。

⑥そしてシェフから結婚のお祝いプレートのプレゼント。
チョコレートで書かれた祝い文字は中々達筆な日本語でした。やはり卓越したフレンチシェフは絵心ばかりか筆も立つのかと,改めて感心したりもした。彼は、ひょっとして華やお茶もやるのかな。
その昔、伝説のバーラジオの尾崎氏は、バーテンダーにはお華とお茶は必須科目と言っていたな。
そういえば、形成外科学会でも形成外科医は「生け花」を学ぶべしといった発表があったな。彼の言いたいことは分かったけど、当人がもう少し生け花も手術も上手なら説得力があるのになあと思ったりしたものだ。

ところで、中野シェフは腕ばかりか、さらに口も立ちます。

花嫁を囲んで記念写真です。
ご結婚おめでとうございます。
〇〇ちゃん、いつまでもお幸せに。

ダイニズテーブルースノッブさと斬新さが少しも変わっていないヌーベルシノワの星

雑誌GQ10月号を読んでいたら、「GQ TASTE 話題のグルメ」として中国料理最前線という特集が組まれていたので興味深く読んだ。『の弥七』でも出て来るかと思ったが、なんと「ダイニズテーブル」が出ていた。
もう30年以上前になるが、中華をフレンチスタイルで食べさせるお洒落な店として一世を風靡したが、もう過去のお店かと思っていたから驚いたのである。
青山骨董道りから、根津美術館の方に入る交差点の直ぐ右側の所にあるから、時々その前は通るので、未だお店があることは知っていたが、かつてのオーラは感じられず、良く続いているなあ位に思っていたのである。

今ではさほど珍しくもないが、中華料理をフレンチレストラン以上にシックなインテリアで、趣味の良い洋食器で一銘づつサービスする斬新なスタイルでヌーベルシノワを東京に初めて登場させたのは岡田大貮という洒落者だった。1980年代初頭の頃のことで、東京でも、未だフレンチといえばホテルのレストランを思い浮かべるくらいの、東京の食文化が花開く夜明け前の事であるから、それがいかに時代を先取りしたものであったかは今になって良く分かるのである。

店内

岡田氏は、その他にも原宿のマンボウズ、ブラッスリーDなどレストランやクラブを経営していたが、中でも原宿の先、千駄ヶ谷小学校の近くにあった「クラブD」は当時の最先端を気取る人達が集まるメッカの様であり、小生のような者は一度行ったらもう怖気づいてしまい二度目は行けなくなるようなディスコであった。まさに今でいうヴィップ御用達クラブであった。

骨董通りも、その頃からお洒落な家具屋、雑貨屋やブティック、レストランがどんどん増え、様変わりして行った。当時は根津美術館の入り口は骨董通りにあったような気がする。
インテリアのIDEEの旗艦店が出来、やがてIDEE Pacificも出来、日本にアジア家具のブームが来て、やがて終わり、いつの間にかIDEEも居なくなった。B&BもPapasも居なくなった。
今この辺りで残っているのは、JAZZのBLUE NOTEとJIL SANDERと岡本太郎記念館とダイニズテーブルくらいではないかと思う。最も岡本太郎記念館は彼が亡くなってからであるから当時はまだ無かったかもしれないが。

東京はバブルが正に始まる直前で、すべてイケイケの風潮で、食事もどんどん高くなっていったから、ダイニズテーブルも相当高かったような気がする。

今回雑誌で紹介されていた料理に興味がわいて、久々に行ってみようかとサイトで確かめたら、ずいぶん安くなっているのに驚いた。きっとお店もチープになっているのだろうと予想して訪ねたのだが、入り口の雰囲気から接遇から、昔と変わらないものであった。
インテリアも変わらず、サービスも変わらなかったが、安くなった分、客層もカジュアルになっており、軽装の男性の二人連れが大声でしゃべるのには閉口した。

興味を持った料理は大量の唐辛子を炒って食材に風味付けする料理で、前に『の弥七』で食べて感心したからである。

その調理が入ったコース料理を食べて来たのでご紹介しよう。

前菜

前菜

イタリア産の栗と生ハムの春巻き

イタリア産の栗と生ハムの春巻き

マコモ茸入り里芋の団子のコンソメスープ 干し貝柱の香り

マコモ茸入り里芋の団子のコンソメスープ
干し貝柱の香り

金のかに玉

金のかに玉

大エビの黒酢クリーム炒め ポルチーニ茸風味のマッシュポテトと共に

大エビの黒酢クリーム炒め
ポルチーニ茸風味のマッシュポテトと共に

カシューナッツをまとった牛フィレ肉のロースト朝辣椒の香り

カシューナッツをまとった
牛フィレ肉のロースト朝辣椒の香り

角煮と青梗菜の炒飯

角煮と青梗菜の炒飯

デザート 梨のコンポート

デザート 梨のコンポート

タピオカ入りマンゴのスープ

タピオカ入りマンゴのスープ

以上がプレミアムプリフィックスコース8000円である。

今のお店のコンセプトはフレンチ料理人が考えた中華料理だそうである。
確かに春巻きは生ハムと栗という斬新な取り合わせであるし、「金のかに玉」はズワイガニの脚の上にスフレかと思わせるようなふわふわのオムレツが乗せてあるものだったし、海老の黒酢クリーム炒めの附け合わせのマッシュポテトはフレッシュポルチーニが刻んで入っており、その芳香は十分に妖しいものであった。
目的の唐辛子炒めの牛フィレはナッツがパン粉のように絡み、ロゼにローストされており、それだけでも十分に美味しそうなのだが、それに大量の唐辛子を炒って、かぶせて風味を付けて中華のローストビーフになっていた。
唐辛子は一緒にローストしたのかどうか、詳細は不明である。

最近は和食でもトリュフを使ったりするが、唐辛子の香りで来るところは心憎い。
もし『の弥七』を知らなかったら、もっと感動しただろう。

食材の取り合わせは、「の弥七」に劣らず斬新だが、味付けは「の弥七」程、中華の伝統を超え過ぎてはいない。
ワインも値ごろのものが揃えてあり、店の見栄のような高級ワインがリストにないのも潔い。

全体にはかつての高級なお洒落な雰囲気は保っているが、客層はかなりカジュアル化して気どりが無くなっており、プライスダウンもあって使い勝っては良くなったような気がする。
しかし当時を知る世代には、バブル期のような‘すましこんだ滑稽さ‘も今は懐かしい。
実に、世の中は「虚」で満ち満ちていた。

ダイニズテーブルをこれからどのように使うかは、もう何度か足を運ばないと分からないが、良いテーブルに当ればCPは相当良いと思う。

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